ドラマと言いつつほとんど映画の話ですけど。あと小説かな。
先日『Boogie』のとこでハリウッドのアジア系映画『クレイジー・リッチ!』について、どうしてアメリカのアジア系の人たちが熱心に応援してたかを書きました。そしてアジア人が主役のマーベルの新作映画『シャン・チー(Shang-Chi)』も応援しなきゃって言ったけど…、この映画、中国では上映予定が未定のままで公開されない可能性があるとかって記事が出てました。あれれ。
いくつか記事を読んだところ、ステレオタイプなアジア描写とか、文化に対する敬意がないのに売るためにアジアを利用してるっていわゆる『文化の盗用』的な理由とか、キャラクターの設定が『人種差別』的ってことなどが、中国が拒否した理由として挙げられてました。
まあ中国当局が直接言ったわけじゃないし、この先、やっぱり上映されて「全中国が泣いた!大人気映画!」になる可能性も…ゼロではない。よね。なのでここはどうなるか曖昧ですが、日本では9月3日に普通に公開されるそうです。みんな見てね!
今回はこの映画の話もほとんどしてないけども、どんなものかざっと紹介しとくと、アジア系の主人公をアジア系の役者さんが演じるスーパーヒーローものです。日本だと特撮で見慣れてますが、初のアジア系マーベル・ヒーロー映画ってことでハリウッドでは期待されてます。
個人的には『恋する惑星』のトニー・レオンが主人公の父親役ってのがちょっとショックでした。私も年を取るわけだと。
勿論、制作のマーベルは商売のために作ってます。ポリコレでアジア系を入れるのも今時の主流だからだし、あわよくばアジアのマーケット・つまりチャイナマネーを狙うぞと。そこがいきなりコケてるって話ですが。
一方で役者さんはもっと崇高な思いがあったりもしてるよう。まず主役シム・リウ(Simu Liu)さんはアジア系カナダ人ですが、北米で暮らすアジア系の人にとってはハリウッド映画でアジア系が主役になるのは差別をなくすためにも素晴らしい試みだって意気込みを語ってました。『Boogie』のとこでも書いたけど、単にアジア系が出てるってだけでなく、主役で白人と同じ役割を演じるってことにも意味がある。
日本のドラマを見て育つ日本人には、日本人が主役で強い役もカッコいい役もモテモテの役も何でもやるのが当たり前ですが、欧米だとアジア系はマイノリティなので脇役ばかり。アメリカで暮らすアジア系は白人の引き立て役のキャラばかり見せられて生きてると。それが変わっていくことでアジア系の子供たちにも自信や希望を与える一歩になる。みたいな。
反対に中国側の懸念と言われるものは、『黄禍論』でアジア系が差別された過去をこの映画のストーリーが蒸し返してるって。
具体的にはこの映画は元々『Master of Kung Fu』ってコミック原作がありますが、そちらでは主役の父が悪のボスの『フー・マンチュー(Dr. Fu Manchu)』だった。後にその名前の権利問題があったりで改名してたり、今回の映画でも別のマーベルの中華系悪役『マンダリン(Mandarin)』からオリジナルの『ウェンウー(Wenwu)』って名前になっているけれど、基本設定は変わっていない。
そしてこの『フー・マンチュー』ってキャラクターは『黄禍論』に基づいて作られた人種差別的なものなので、いくら名前を変えたり今風にアレンジしてもそんなキャラを出すなと。『マンダリン』って名前も、中国の宦官や中国語を指していて、それが典型的なアジア系の悪役の名前なんだからまあイメージよくない。漫画だと中国生まれで中国の砂漠に基地を構えてるとかって設定もあるし。
そもそも当初の話では映画にはこのキャラは登場しないってなってたのが、2019年7月にキャスティングが発表されて出るのが分かり、中国国内で論争が起きたそう。更に2020年以降の新型コロナウイルス感染症が「中華ウイルス」と呼ばれたり今まさに『黄禍論』的差別を受けている。そういう流れで公開の予定が未定ってことらしい。
これ立場が違うだけで、どちらが間違ってるとは言えないとこで難しい。ヒーローにするけど悪役にもしてて、どちらを見てるかってだけだから。でも日本だと原作が出っ歯に眼鏡で軍服着たようなキャラでも、映画で訂正しましたって言われたら喜んで公開しそうなので、お国柄の差はあるね。
とか言っても『黄禍論』だの『フー・マンチュー』を知らないと、何が問題なのって分からないと思いますので、今回はそのお話です。
ここからはアジア差別の歴史とかも書くのでちょっとヘビーになります。
黄禍論と東アジアへの偏見
『黄禍論』はそのまま「黄色(黄色人種)が災いを運んでくる」って思想です。19世紀頃に欧米に広がって、「だから黄色人種を差別・排斥しても許される」ってアジア人排斥運動の正当化にも使われました。
今回は中国の話がメインだったり、日本人には関係ない文化や習慣を指していることも多々ありますが、これは中国人だけを指す言葉ではなく、東アジア全体――日本人も韓国人も含まれます。時代や場所によっては日本人の方が差別されたこともある。日本人と間違えられて中国人が襲われて亡くなった事件もある。
元はアジア系の移民が現地の労働者より安く勤勉に働いて仕事を奪おうとしている、仲間を連れてきて自分たちの土地を侵略してくるなどの脅威がベースにあります。そこに違う文化や風習への恐怖が混じり合って、迫害するようになった。
まず、欧米と違って神様を信じない。もしくは土着の宗教を持っていること。
日本人の多くは、善悪や正義、人間関係・常識・社会のルール、生き方や、親や目上の人を敬いなさいみたいな道徳を家族や授業で学んでいるとか思います。儒教や恥とか武士道みたいな概念もあります。そして必ずしも宗教と結びついてはいない。これはアジア圏の他の国も多分同じ。
一方で一神教の多くの欧米国は、道徳も正義も良いこと悪いことも、神様との対話を通して学びます。キリスト教徒なら聖書の教えで道徳や生き方を『神様とのつながり』『神様との契約』として学ぶ。善悪も正義も生き方も宗教がベースにある。
なので欧米の価値観では「信じる神様がいない」ということは「道徳も生き方の基盤も常識も学んでいない」と同じ意味になります。何か起きた時に「神に誓う」こともないのだから、正義や倫理も持っていない。ルールから外れたことも「悪い」とすら思わない。だってそんな概念がないんだから。という感じ。
つまり彼らから見た東アジア人は、自分たちの価値観や常識の通用しない、道徳心のない野蛮な生き物と見えたわけ。
更に見た目も欧米人とは違って、小柄で糸目つり目で子供みたいな身体つきをして肌は黄色い。年齢を経ても老けにくい点も妖怪じみている。そして謎の言語を喋ったり書いている。しかし体格的には劣る代わり、上で書いたように(欧米の価値観による)常識が通用しない分、知能は高くてずる賢い。
食生活も大きく違い、ナイフとフォークでなくて箸を使ったりマナーも違う。米や見慣れない発酵食品だけでなく、犬とか猫とか虫や魚や得体のしれないものを食べたりもする。
化学に基づいた西洋医学と違って、東洋医学は生物の肝や草木をすり潰して薬にしたり、鍼灸と原始的な治療をしてみたり、陰陽や気といった精神論に頼ったり、黒魔術のような呪術めいたことをする。
……我ながら書いてて散々な気分になりますが、こういう偏見がアジア系のステレオタイプにつながって、差別を助長していました。
今でこそ欧米でも東洋文化への理解も広がっています。中華料理も和食も食べるし、東洋医学も西洋医学に取り入れられたりしていますが、そうなるまでは全く文化の違う人種の行動様式が未知の不気味なものに見えたと。そしてどちらかというと原始的で未開な劣ったものとして位置づけた。自分たちの文明の方が優れているって。
その偏見が欧米の人たちがアジア人と関わる際の根底にありました。中国系労働者をこき使ったり、チャイナタウンを襲って中国人を襲撃したりといった移民に対する迫害から、中国とのアヘン戦争や日清戦争後の日本への三国干渉も、黄禍論から引き起こされているといわれています。
第二次大戦中のアメリカでは、ドイツ系・イタリア系のアメリカ人は自国民として扱われた一方で、日系人は財産を奪われ強制収容所に送られましたが、これもアジア系への差別によるものです。日系人はアメリカ人として自国への忠誠を示すために志願して厳しい戦地に臨んで多くの犠牲を出したそうです。また居住地の制限やアジア系以外との結婚も禁止されていたりと近年まで法の下での差別もありました。
アメリカ以外でも、オーストラリアの白豪主義は、地理的に近い東アジアの脅威に対するもので、これは1970年代まで続きました。1980年代にはゴールドコーストに平成バブルでお金が余りまくってた日本企業を誘致して高層ビルを建てたり方向転換したらしいけども。バブルが弾けて日本企業は撤退し、今は中国系が盛り上がってる――ってこの話は観光旅行で現地の日本人のガイドさんの受け売りです。
文化や食生活に対する偏見も大きかった。今でこそ和食はヘルシーとか言ってるけど、一昔前の欧米では精製された小麦粉ではなく米とか生魚を食べる文化を野蛮とか言ってた。ヨーロッパでもリゾットとかあるのにそっちは棚に上げてる。
1960年頃の「中華レストランで食事した後は頭痛がしたり体調が悪くなる」っていわゆる『チャイナレストランシンドローム(中華料理店症候群)』説によって、アジア系の食事には欠かせないグルタミン酸ナトリウム(MSG, うま味調味料、要するに味の素)の危険性を訴えたことも偏見から来ています。
実際は中華料理以外にもグルタミン酸ナトリウムは使われてるのに、中華を狙い撃ちなとことか。その後の検証でグルタミン酸ナトリウムは関係なかったと分かっても、中華やアジア料理にはまだ偏見が残ってるとか。
50年以上前のこの偏見で今も風評危害受けてるのが『味の素』です。味の素は、グルタミン酸ナトリウムの主成分であるうまみ成分に関する論文書いたり、チーズやトマトなど欧米の食事にも含まれる成分であるって英語圏で安全性を訴えるキャンペーンをしたりしています。でもいまだに健康に気を遣う人はMSGを避けるし、アメリカとか『MSG無添加』の食品があふれてる。

味の素の『Know MSG』キャンペーンサイト(英語)
https://www.knowmsg.com/
MSGへの正しい理解を深めるために有名シェフが語ったり、歴史や安全性を説明しています。またコロナ差別で窮地に陥ったアジア系レストランを救おうキャンペーンなんかもしています。
去年の英語圏での味の素のキャンペーンの記事。メリアム=ウェブスター(Merriam-Webster)辞書の『Chinese restaurant syndrome』の説明を改訂させたとか、いかに差別と戦ってるかが書かれてる。
世界がグローバル化して偏見は減りつつありますが、今も欧米のメディアはアジアのゲテモノ食を喜んで取り上げてたりします。フグもクレイジーってよくネタにされてるね。フカヒレとかツバメの巣みたいな中華食材が残酷だとか言われたり、ピータンやバロットみたいなものを揶揄するのも。
少し前にそんなゲテモノをゲストに出してネタにしてたアメリカの番組に、アジア系の人が抗議して、コーナーがなくなったってニュースがありました。こういうのも「大げさ」にみえるけど、文化に対する偏見が差別につながるってのがあるから細かく抗議してる。
日本でもヨーロッパのウジ虫チーズとかを「うげー」って紹介してたりするから、正直私も「そんなことくらいで」って思ったりするけども、マイノリティは特に「そんなこと」の積み重ねが大きくなる前に、その都度抗議していくってのが大事なんだって。
白人シェフがアジア食レストラン作って文化の盗用って炎上したりするのも、私は「海外の和食店って元から中国系韓国系の人ばかりだし、白人でも変わらないじゃん」ってぶっちゃけ思っていましたが、「散々アジアの食文化を見下してきた白人が今になってそれで儲けてる」歴史の結果が文化の盗用なので、アジアの他の国がなんちゃって日本食を出してるのとは次元が違うんだそうな…。難しい…。
フー・マンチュー(Dr Fu Manchu)というキャラクター
さて『黄禍論』とそこから生まれたアジア系への偏見と差別について長々書きましたが、次の『フー・マンチュー』はそういう背景とステレオタイプが産んだフィクションのキャラクターです。
大元はイギリスのサックス・ローマー(Sax Rohmer)って作家の『Dr Fu Manchu』小説シリーズに出てくる世界征服を企む悪の組織『Si-Fan』のボスの怪人です。不老不死の秘薬を作ろうとしてたり東洋医学や武闘に達者で、残忍で白人に恨みを抱いていたりする。シリーズなので娘とか家族も登場してる。
このシリーズは1913年に世に出て1930年代までに全13編が書かれ、これを原作として1970年頃まで何度も映画化されてるし、漫画化もされたそう。そしてそれらの小説の挿絵や映画などのおかげで、中国服に中国帽で細い目に細い口髭を生やした中華な老人キャラのビジュアルは大体固定されました。
この一連のシリーズが流行った背景には、先の『黄禍論』がベースになった上で、世界的な不安がありました。第一次世界大戦とその後の世界恐慌、第二次世界大戦、1970年代の日米自動車摩擦からのジャパン・バッシングなどです。戦争や貧困でアジア系を疎ましく思っていた人たちに、中国人のステレオタイプな見た目と言動の悪役キャラがフィットした。そして誰もが知るキャラクターになっていきました。
そして1974年に刊行された今回の映画『シャン・チー』の原作コミック『Master of Kung Fu』にも主人公の父として登場します。そこは最初に書いた通り。後の1983年に名称使用の権利を失い、差別に対する時代の流れもあってか名前は変わりましたが、キャラクターの基本設定は変わっていません。
人気の悪役キャラなので、マーベルのライバルのDCコミック『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン(The League of Extraordinary Gentlemen)』にも登場しているそう。ただこちらでは最初から権利問題があったようで、名前は呼ばれてないって。
――というように、名前を言わずとも設定で『フー・マンチュー』と分かるほどキャラクターが定着したので、そう呼ばれないけど風貌や言動は『フー・マンチュー』そのまんまのキャラ、要するに二番煎じ三番煎じもあちこちの創作に出てきたらしい。
ベースのキャラのテンプレとしては、見た目中国人の男性で、欧米の価値観や正義感を持ち合わせていない、狡猾でずる賢い悪役で人を殺しても騙してもなんとも思わない冷血野蛮なアジア人。武道に強かったり、東洋医学から発展した謎の薬を処方したり魔術を使ったり、特には人類を超えた超人・怪物でもあります。大体は強いのよ。
得体の知れない武器や薬で相手を苦しめる東洋の魔法使いみたいな。もう何でもありです。それだけ当時の人たちがアジア人を脅威に感じてたってことの裏返しでもある。
悪の組織で世界征服を企んでたりするのも「黄色い肌のアジア人に仕事や領土を奪われる」恐怖がそのままフィクションに投影されてる。だからそいつを倒す話で溜飲を下げたわけ。
でもあまりにもテンプレ過ぎるし、こいつをミステリーには出すなって言い出したのが、ミステリー小説好きにはお馴染みの推理小説家のロナルド・ノックス(Ronald Knox)の『ノックスの十戒』です。Wikipediaをコピペしてきた。
- 犯人は、物語の当初に登場していなければならない
- 探偵方法に、超自然能力を用いてはならない
- 犯行現場に、秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない
- 未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない
- 中国人を登場させてはならない
- 探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない
- 変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない
- 探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない
- サイドキックは、自分の判断を全て読者に知らせねばならない
- 双子・一人二役は、予め読者に知らされなければならない
これの5番目。原文は『No Chinaman must figure in the story.』です。
これはミステリのトリックを作る時に「この10個は使うなよ」って提言です。けど別に罰則じゃないので普通に破って使ってる本はたくさんある。あえてこの十戒を全部破ってみせてる本もある。どれって言うとネタバレになっちゃうけども。
そしてここで言う『中国人』ってのが、『フー・マンチュー』的な超人中国魔人のことです。こいつが出てきたら、モラルのない荒唐無稽な話になるし、「犯人は魔法で密室に忍び込んで殺して鍵穴から出て行った」みたいなトンデモトリックもありになってしまう。だからダメですって意味よ。←ほんとに中国人にどういうイメージ持ってたんだよと。
勿論こういう偏見に基づいたキャラクターに関しては、初登場した1910年代から中国政府も中国大使館も何度も抗議していたそうですが、当時は「面白ければいいじゃん」みたいに差別に寛容だったり、アジア人の発言力が弱かったりで時代的に聞き入れられなかったらしい。
1980年代になってアメリカも変わってきて、『フー・マンチュー』シリーズの映画を中止にしたり、先のマーベルがキャラの名前を消したりするようになって来ましたが、それでもここに来るまでに長い差別の歴史がベースになっているからこそ、「今更、名前を消したくらいで誤魔化すな、キャラはそのまま残ってるじゃんか」ってなる。
時代が変わって、若い人も知らなくなってきたキャラを今の時代に再登場させることが、差別を蒸し返すって意味も分かるかな。
そして――中国人だけなら日本には関係ないし―って思った人もいるかもしれないけども、日本差別のキャラもいます。
大体は第二次大戦頃のプロパガンダで描かれた出っ歯で糸目つり目で眼鏡のキャラですが、モデルは昭和天皇や東條英機らしい。なので一般人を差別しているわけじゃないってロジックね。
このステレオタイプキャラクターもあちこちの創作に登場します。残念ながらずる賢いアジア人だけど、こっちは強くないんだな。いつも白人に倒される…。
中国人は魔法使いだけど、日本人は女性をさらったり人間的な悪いやつ。その辺も戦時中のプロパガンダもあったり(弱くてやっつけられる敵でないと戦争のプロパガンダにならない)、現実的に迫った脅威として身近に描かれているって面もあったりする。
去年くらいに時代に合わないって権利管理者が作品をいくつか絶版にしてた『ドクター・スース(Dr.Seuss)』も、日本でも有名なほうれん草缶食べて強くなってる『ポパイ・シリーズ(Popeye the Sailor)』も、戦時中は反日のプロパガンダキャラクターを登場させてます。まあ日本も反米映画とか作ってたし戦争中は仕方ないけどね。
しかし戦後1961年の映画『ティファニーで朝食を(Breakfast at Tiffany’s)』にも、典型的な出っ歯でつり目の日本人が登場しているのは有名です。この映画、日本では普通に若い女性に人気のお洒落映画として流通してるのが昔から謎であった。後に、コミカルなキャラクターという位置づけで悪気はなかったとお決まりの謝罪をしています。
それ以外にも出っ歯で首からカメラを提げた観光客のキャラクターも典型的です。貿易摩擦の恨みや、バブル期にアメリカの不動産を買ったり羽振りの良かった日本への嫉妬も含まれていますが、日本人に対する差別描写も悪気なく近年までは当たり前に存在してたということ。
善人のフー・マンチュー?
さて差別と偏見のキャラばかり見ると悲しくなってしまうので、今度は良い方の話へ行きます。見るからに中国人で武道の達人で頭がよくて――どんなキャラを想像するでしょうか。こっちは日本の少年漫画によくいますよ。
と言っても私は最近の漫画は知らないんだけど。一昔前の少年ジャンプ漫画ではよく出てた『仙人』『老師』『魔法使い』的なキャラよ。何故かいつも中国人のおじいちゃんで、武道が得意で、人生経験も積んでいて何でも知ってる。これは『フー・マンチュー』の善人バージョンとも言えるかも。
こっちは日本だけでなくハリウッド映画などでもよく登場しています。武道の達人だったり悟ってたりする謎に強いアジアの仙人的なキャラ。一昔前は白人俳優が演じてたけど、最近はアジア系の役者が演じるべきって言われていたり。かと思えばこういうキャラはステレオタイプすぎて良くない、差別だって言われていたり。
そもそもどうしていつも中国人?てよく考えると謎ですが、多分、武道が強そう・何でも知ってそうってイメージがあるからでしょう。漢方で未知の病気も治せそうとか。中国四千年の歴史だよ。もしくは七福神とかおめでたいところから来てるかも?
日本の創作に限っては、この手のキャラクターに中国が抗議してきたって話は今のところ聞いたことがありませんが、それは良いキャラが多いこと、『黄禍論』の差別をベースにしていない(中国と日本は一緒に迫害されてる側だし)、どちらかというと長い歴史に対するリスペクトがあるってところが理解されているからかも。
ただ日本の創作も世界に配信されてるので、日本人は差別してなくても欧米は違う受け取り方をするとかでこの先、問題視する可能性がないとは言わない。
マジカル・ニグロ(差別語)とネイティブ・アメリカン
善人フー・マンチューこと超絶中国魔人には別人種の仲間もいます。
一昔前の映画などに白人主人公のサポート役でよく出てきてたアフリカ系のいいやつ。通称『マジカル・ニグロ(Magical Negro)』ですが、今は『ニグロ』は差別語です。そしてこのキャラも、「日頃は黒人差別するクセに都合よくいいやつとして登場させてるんじゃねー」ってアフリカ系の人たちの抗議を受けて最近は出てこなくなってます。
ネイティブ・アメリカンの老人も、アメリカのフィクションでは中国の仙人と同じ感じで出てくる。彼らもミステリアスでたまに格闘のプロだったりしてますが、こちらは主人公に知恵を授けたりする。
実際は迫害されて居留地に追いやられてる人たちなわけで、こっちも「都合のいい時だけ出すな」って思ってるかもしれないけども、あまり直接クレームが(今のとこ)来ていないのか、割と最近も見かけました。
なんでこういうパターン化したキャラが物語にはよく出てくるかというと、技術的な話をすれば『ハリウッドで売れるテンプレ』になってるからって面もあります。ヒーロー、ヒロインと彼を支える師匠や敵対者――みたいな鉄板のマニュアルやキャラ設定がある。ただそれも時代遅れになりつつあるのでアップデートしないと炎上するんですけど。
善人キャラで出してるんだからいいじゃないかってのも、今の時代は「ステレオタイプを助長する」とか「都合よく使うな」ってなるわけで。一昔前の価値観どころか去年の価値観すら覆ったりで頻繁に変わるので、未来がどうなるか分かりません。
アジア系と言えば武道でしょって人もいれば、みんな武道できるわけじゃないのに偏見助長するから差別だっていう人もいます。なので今回のマーベルの映画も見る人によっては、アジア応援であり、アジア差別助長になると。まあそんな話でした。