When the Wind Blows 風が吹くとき [1986年イギリス映画] 西と東と冷戦時代の因縁

さて今回は『When the Wind Blows』という1986年のイギリス映画。邦題は『風が吹くとき』です。冷戦時代のイギリスの制作で核戦争後のイギリスの田舎の夫婦の物語。日本では2011年の福島の原発事故後に何かと話題になった映画です。私もその当時にどこかで話に聞いたかでうっすら記憶にあった。

それが今回はウクライナとロシアの戦争でロシアが核を落とすかもってニュースで話題になり、10年ぶりくらいで名前を聞いた。みんな身近な危機にならないと興味持たないよねと。今回はそんな教訓も含んでる。

元はイギリス映画ですが近年、英国・米国それぞれのバージョンでDVDとBlu-rayのリマスター版が出てるようです。それで見たわけですが、日本語版は古いのがプレミアム価格のままっぽい。代わりに翻訳された原作本は定価で手に入りますが。映画でも本でもどこかで見る機会があったらぜひ見てほしい作品です。

映画の背景・冷戦時代の空気

この映画が最初にイギリスで上映されたのは1986年10月だそうですが、この年は4月にチェルノブイリ原発事故が起きてます。が、映画の制作はそれより先です。というのも冷戦時代でしたから。

今生きている日本人のほとんどは私も含めて第二次世界大戦後の人なので広島・長崎の原爆投下が起きた後の人間です。なので原爆投下は起きた事実として受け入れて生きてきたわけですが、イギリスは少し違うようで。

第二次世界大戦が終わって、次にやってきた冷戦時代は西側諸国と旧ソ連が敵対し、両者に核戦争の脅威があった。その中でもイギリスはどうも「次はお前だ」って宣言受けたみたいな状況だったようで、原爆はすぐ未来の危機だった。

この時代は一般市民も含めて特に核兵器の脅威に対する恐怖心が強かった様子。サイレン鳴ったらシェルターに逃げましょう、みたいな避難訓練をしてたり、核投下後の対応がテレビでも流れてたりしたそうな。映画でも旦那さんは政府のパンフに沿ってシェルター作ったり備蓄したりしてますが、内容はともかくそういう手引き自体は実際配られたらしい。

この辺も全くの未知の爆弾ならそこまで過剰にならないものが、なまじ広島・長崎の原爆投下を見ただけに、被曝で苦しんで亡くなった人とか大勢出た事実を前に「ああなりたくない」ってビビってたみたいな。お前らも連合国でアメリカとつるんでたじゃんみたいに、日本人的には突っ込みたくなるけども。

まあその日本も冷戦時代は西側諸国の一員だったわけですが、イギリスほどにはソ連が日本に核落としてくるって心配してた人はいない(落ちるならまず欧米でしょ)わけで、冷戦の核には幾分他人事だった面もあるけども。

The Game [2014 BBC TV series] ネタバレ感想

『The Game』は冷戦時代のロシアとの戦いを描いたMI5のスパイドラマでしたが(『Tinker Tailor Soldier Spy』の二番煎じでBBCが作ったとかの…)、英語版DVDには特典で役者のインタビューが入っていて、出てた女優さん(Victoria Hamilton)が自分が子供の頃の冷戦時代の恐怖を語ってたりするんだけど、この人も「いつ核兵器が落とされるか」に当時は日々脅えて暮らしてたって言ってた。

このドラマに限らず、冷戦時代のイギリスのドラマはどれもロシアの核の脅威を語っていて、何も起きなかったのを知ってる現代に見ると「過剰にビビってる」みたいにも見えたりする(やっぱり既に落とされた日本からしたら、大げさに言ってるけどさ、そんな嫌なものをこっちには落としたのかよ的な冷めた目にもなるからさ)。それも実際の時代背景や空気に基づいているらしい。

イギリスでも広島・長崎のドキュメンタリーなども作られてたりするけども、割と原爆を美化してないのは、自分らの身に降りかかりそうになったって反省もあるのかも。勿論、原爆投下を正当化してる人もいるけども。

 
一方で落とした張本人のアメリカは「核が来たら受けて立つぜ、ハハハ」みたいな映画ばかりだし(偏見。実際は違うのもある)、反省してる人もいるけど美化する人も多いし、他人事感もある。実際アメリカ人の友達に聞いても当時もイギリスほどには深刻な恐怖感は持ってなかったみたいで、お国柄の差は出てる。まあ原爆の話は日本人の私に「全然気にしてなかったよ」とはアメリカ人も言いづらいようであまり細かい話はできないけども。

ただ核が落ちたらどうするかの対応法『Duck and Cover』ってやつを学校で習ったとかは言ってた。机の下に潜っておとなしくしてるとかの訓練だって。それ日本では地震の際にやれって習うやつと同じってちょっと笑ってしまったけど。放射能がそれで防げんのかよって感じだけども、落下物や飛来物から身を守る程度の効果はあるんでしょうね。地震の場合と同じで。

むしろアメリカでは自国の核実験のフォールアウト(核落下物)の影響の方が身近に語られてたとか言ってた。一昔の前のハリウッド映画だとネバダ核実験場がよく出てきましたが、それによる被曝で白血病とか癌が増えたなんて研究もあったそうで、昔はよくニュースにもなったそう。こういう核実験も当時は盛んに行われていて、太平洋の海上実験では日本の漁船が被爆したりもしています。

 
そしてそんな風に西側(特にイギリス)が脅えてた旧ソ連の核ですが、こちらも兵器の技術を流用してた原発で1986年に事故を起こしてしまいます。これが上でも書いた有名なチェルノブイリ原発事故。

しかしイギリスがビビりまくっていたように、旧ソ連の核はこの時代、世界を滅ぼすほどに強力なものでないとならなかったので、旧ソ連側は原発事故も最初は隠蔽し、スウェーデンで放射能が検知されると事故の事実は認めたけれど、あくまでも無知な原発運転員の起こした人災としてIAEAに報告します。人力で放射能がれきを除去したり石棺を作ったり無茶もしてた。国の威信を損ねたら西側に隙を見せることになるからハッタリ通してた。

なのでイギリスの人たちも引き続き旧ソ連の核に脅えつつ、この映画とか見てたんでしょうが。ドイツのベルリンの壁が壊され、冷戦は終わり、ソ連は崩壊し、1991年にチェルノブイリの事故調査が改めて行われた際には制御棒の欠陥とソ連の安全性の欠如と事故原因が改められました。

HBOのドラマでは両方混ぜて運転員のせいにされてたけど、その辺の事実との差異は『Chernobyl チェルノブイリ・ドラマを超真面目に検証【前編】規則違反か欠陥か』で文献をもとに詳しく書いたけど、見掛け倒しの張り子の虎の旧ソ連の体制が原発にも影響してたって話。

その辺は今回のウクライナとの戦いでも出てて、最強ロシア軍のはずが戦争始まったら、なかなか制圧できないし意外と弱っちいのでは…みたいなのにも表れてる。まあウクライナには西側がついててプロパガンダもリアルタイムに流れてるので、どこまで事実かは分からないけども。

戦時中は「相手は弱い、行ける」って煽るものだから。

そして欧米が正直やりすぎなくらいロシアの市民や物まで締め出してるのも、こういう過去から続く因縁があるからで、今回初めて日本も正面切って巻き込まれてるみたいな。

民間防衛 -あらゆる危険から身をまもる-
※スイス政府が人と国を戦争・災害から守るために配ったマニュアルらしい。
これも原発事故後に話題になった。

映画の話

……と、そんな時代のイギリスで、核爆弾がいつ降ってくるか分からない恐怖の中で作られたのがこの物語。ほのぼのとした絵で淡々と描かれるアニメーション映画ですが、それが余計に恐怖を増してる。

ストーリーとしては、ソ連の核兵器に脅える時代、イギリスの郊外で暮らす老夫婦が主人公。奥さんは料理とか日常を気にしてる一方で、旦那さんは政府の核対応パンフの手順に沿って自宅の壁に戸を立てて避難スペースを作ったり、備蓄をしている。窓ガラスを白いペンキで塗ったり。これは広島の時に、白い服着てた人は軽傷で済んで、すぐそばにいた黒い服の人は亡くなったって話に基づいてる。着物の柄が肌に焼き付いてしまった人(原爆乙女)、黒い模様部分だけ焼かれて白い生地だけが残った服とかの話もある。

そんなある日、ラジオが核爆弾が来ると警告し、二人は避難場所に逃げ込む。家の外では核が全てを吹き飛ばしてる。二人は助かったけど家の中もめちゃくちゃで、ガスも電気も電話もつながらなくて全て破壊されてた。

政府の助けが来るまで生き残った二人は携帯コンロでお湯を沸かしてお茶飲んだり備蓄を食べてサバイバルする。しばらくは出るなってマニュアルに従ってたりするけども、具合をよくするために数日経って外へ出て日光浴とかしちゃう。雨が降ってきた時にはちょうど溜めてた水がなくなるとこだったからって雨水汲んで、それをコンロで沸かしてお茶飲んでたり。

牛乳配達も郵便も新聞も届かないって待ちながら、ロンドンの息子たちの心配していたり。戦争なのでロシア兵が攻めてくるんじゃないかとかって話もしてたり、被災後に生活してる二人の会話も生々しさはあるんだけど、ロシア人はお茶が好きだからお茶出したらいいんじゃないとか、奥さん呑気なことも言ってる。

ただそうしている間も、頭痛から始まって、お腹壊したり寝込んだり、歯茎から出血したり、吐いたり、髪の毛抜けたり、けいれんしてたりと、二人の体調は悪化してく。淡々とサバイバルしてるように見えるんだけど、核の灰浴びたり、黒い雨飲んだりアウトなことたくさんしてるから被曝してるってわけ。

その辺は放射能の知識のある人が見たら、途中途中でヤバイって分かるし、二人の症状は典型的な放射線被曝だし、未来もオチも予測できちゃう。どう見てもハッピーエンドにはならないわけだけども、そこが核の恐ろしさってのを伝えてる。

何かと暗示的なシーンも出てきてたり。具合が悪くなった奥さんがトイレでネズミと遭遇してパニックになってて旦那さんが大丈夫って言ってるシーンがあるんだけども、日本人的にはネズミがちゅーって現れてる描写は田舎の古い家とかほのぼの描写ですが、ヨーロッパではペストが流行ったのでネズミは死を予感させる恐怖のシーン。みたいな。

避難パンフにもしもの際は紙袋に包まって放射能を避けましょうみたいな謎の指示もあって前半は笑えるんだけど、最後は奥さんが紙袋に入りたがってたり。これは遺体袋を暗示してるとか。

  

※英語版(私が見たやつ)と日本語版。

この映画の原作はイギリスのレイモンド・ブリッグズ(Raymond Briggs)という作家のコミックなんだけど、夫婦の被曝の過程は広島と長崎の実話をベースにしてるそう。なので映画も当然それを追いかけてる。ただ話の中でも広島を参考にしてるシーンとか出てくるけども、それはあくまでも国のパンフに書かれてることをなぞってるだけで、物語の中の二人には雨水飲んじゃダメとかの知識はないから、放射能は防げない。

そして映画化の際の監督ジミー・ムラカミ(Jimmy Murakami)さんは苗字の通り日系のアメリカ人二世です。この方は戦時中はアメリカに敵対する日本の血を引いているということで収容所に入れられていた経験もあるそうな。一方で今回の映画を作ったのは、アメリカ人でありつつも日本の原爆投下の件には思うところがあったからのよう。

この監督は晩年はアイルランドへ移ってアニメスタジオ持ってたそうで、私は「これとスノーマンの人」くらいしか知らない方でしたけど、アイルランドの知り合いは有名だって言ってた。少し前に亡くなった時にニュースになってたらしい。

  

※映画と原作本。どちらも日本語。

当事者はこんなことが二度と起こらないようにって反核反戦を訴えるけれども、イギリスがわが身として受け取ったのは、実際に核の脅威が迫った時。そしてこの物語ができた。

その後、最初に書いたように、日本でも福島の原発事故後に話題になった。ある意味逆輸入みたいだけど、原爆の話が遠くなったところで事故が起きて、身近になって気になったと。今回も、戦争で核の脅威が身近になって、また思い出された。

つまり平和な時は肝心のメッセージって伝わないっていうか、普通の人には興味を持たれない。興味を持つ時は当事者になった時。それは私も含めて。そんな矛盾に気が付いた今回だったり。そしていつも戦争に巻き込まれて苦労するのは一般市民ってのをしみじみ思ったり。

なんて真面目に言ってみるけども、こちらはガチガチの反戦反核映画ではないので、作り手の思想が重い…みたいなのもないし、いかにも泣かせに来てる映画でもないって点はすんなり見られる映画です。なのでほんとに見る機会があったらみんなぜひ見てね。そしてこれ見て鬱になったら、次は可愛くて少し切ないスノーマンもどうぞ。同じ原作者と監督(映画)です。映画は例のごとく日本語版はプレミアムついてるけども…。