Tinker Tailor Soldier Spy 裏切りのサーカス ネタバレ感想

6月はPride Month(プライド・マンス=LGBT月間)ですって海外からお題が来たけど思い浮かばないので、前に見たこの映画を引っ張り出してみる。一応LGBT要素もあるので。イギリスのスパイ映画です。日本では2012年に公開されました。

Amazon.co.jpのレビューで同じことを書いていた方が何人もいましたが、まずこれ邦題がビミョーだと思います。ゲイリー・オールドマン主演でこのタイトルって、普通にB級アクション映画みたい。笑。だって『裏切りの○○○』って一昔前の映画でよくあった感じ…。

ジョン・ル・カレの原作小説はそのままカタカナの『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』で日本語翻訳されてますが、有名作家の本だからこれはこれでいいとして、原作を知らない人も見る映画だとタイトルをひねるのも仕方ないのかもしれません。

ちなみにサーカスはイギリス秘密情報部(MI6)本部がロンドンのケンブリッジ・サーカスという場所にあることに由来している暗号だそうで、この物語には空中ブランコもダンボも出てきません。日本語wikipediaに『イギリス・フランス・ドイツ合作のスパイ映画』って書いてありましたが、舞台はほぼイギリスでMI6の面々が舞台です。敵対するKGBとの駆け引きの中で、誰が二重スパイかって疑惑を追っていく話です。

過去にBBCで映像化されてるそうで、今回のはリメイク版と呼べるかも。ただ私はベストセラーの有名原作小説も読まず、最初の動画も知らずにいきなり映画を見ました。以下ネタバレしてます。

 

He has the name of the mole the Russians have planted in the British intelligence service right at the top of the Circus.

イギリスの暗い空と石畳や煉瓦に囲まれた閉塞感あふれる煤けた画面。冷戦下1970年代の物語です。冒頭はサーカスリーダーのコントロールがジムにブダペストでのハンガリー将軍の亡命を依頼するところから始まります。彼はソ連が送り込んだ二重スパイの情報を持っているとされる男。しかし亡命手助けは失敗してジムは襲撃されてます。コントロールはミスの責任を取ってサーカスを辞め、その際に主人公ジョージ・スマイリーも一緒に連れて去ります。そしてコントロールが死に、引退したスマイリーたちが二重スパイの正体を追うという話。

二重スパイの『モグラ(Mole)』を探す中で疑わしいやつが出てきては潔白だったり、サイドエピソードがあったりするものの、話の筋自体は複雑じゃない。ただし現在と回想がどちらもカラーで切れ目がないので分かりづらい。死んでる人が画面に出てるから回想だって気づいたり。これもパズル的になっているので全部見れば、あれがあのシーンにつながるって分かるけど。登場人物の把握のしづらさも含めて、多分何度か見返した方が楽しい映画でしょう。

基本は原作者が元スパイということで、リアルを追求した?地味なスパイ映画なので、アクションがないからだれる…頃を見計らって一応は死体とかぐろいの出てきてます。でもジリジリ追いつめる系なのでハリウッド的な華やかさとか分かりやすさはない。

そして『サーカス(Circus)』『モグラ(Mole)』とか、『ウイッチクラフト作戦(Operation Witchcraft)』とかスパイもの(と軍隊もの)によくある、作戦名やらコードネーム付けるノリは、ハマれないと芝居掛かって聞こえます。前に見たって友達は、饒舌悪役イメージがついてるせいか、ゲイリー・オールドマンが寡黙で顔芸キャラなのがわざとらしくて気になったって言ってました。そっちかい。

舞台背景も、1970年代のイギリスは知りませんが、灰色の空や石造りの風景も相まって、重々しい時代の雰囲気は良く伝わります。建物の中の小道具とか街並みや車やスーツとか、やたらタバコ吸ってるのとか、当時の情景を再現してるんだろうなと、レトロさが物珍しくもあったり。ただIMDbとか見ると間違いもあるらしくて「この時代にはなかった」とか指摘されてるけど…。雰囲気に合ってれば、細かいことはいいんだよ。

会話はイギリス英語です。Peterって名前もアメドラだとピーラー的に聞こえるけど、ちゃんとTを発音しててピーターに聞こえるだけで新鮮です。Get outもちゃんとゲットアウトに聞こえるとか。Hotelがちゃんとホテルだとか。Waterがウォーターだとか。…ってTばかり気になってますが、can’tはカントだし、toDayだし、往復切符買うのにReturnって言ってるし(アメリカだとRound-trip。ついでに片道は英Single・米One‐wayみたいな)、他もちゃんとイギリスよ。音も訛ってないって感じ。一方でKGBの面々の人たちの英語が流暢すぎて物足りない。

一応は美女とハンサムも出てきますが、最初に書いたようにほぼおっさんたちばかり。人数的にはヒーロー大集合のアメコミ映像化の煩雑さよりはだいぶマシですが(なんでそれと比較する…)、おっさんたちの姓&名&あだ名&役職と顔が分からないと誰が誰だか分からなくなります。例えば主人公ジョージ・スマイリーをコントロールは人前ではスマイリー、プライベートではジョージって呼ぶ、みたいな使い分けとか。ピーターも最初はミスタースマイリーって言ってたのが、一緒に仕事をするうちにジョージって呼ぶようになってる。他にもあだ名で呼ばれてる人がいたり。そんなのが人数分ある。

更にサーカスメンバーや関係者以外にも大使館職員とかいろいろおっさんたちが入り乱れて話に関わってくるけど、おっさんなんてどーでもいいやってテキトーに見てると「この人誰だっけ?」ってなる。そして時系列バラバラだから余計に分かりづらい。

冒頭で撃たれて死んだと思われてたジムに似た小学校教師が出てると思ったら当人じゃん、とか。一方で別の人たちが死んでるって言ってる話が並行して進んでる。その後、死んだ後にお金が振り込まれてるのはなんでだ→生きてるんじゃないか、みたいなやり取りがあって、やっぱ生きてたとつながる。この『実は生きていたのだ』設定はアメドラだともっと派手に演出するけど、分かった後も淡々と物語が進んでるところもヨーロッパ的。その辺がスパイのリアリティを出してるのかな?

そしてMoleの正体がビルと分かった時も同様に静かです。「お前だったのか!」みたいに叫んだり、「どうして!」とか掴みかかって殴ったりはしません。そんな正義感と義憤に駆られた主人公じゃない。一応理由が明かされるものの淡々と進みます。

ただひとつ残念だと思ったのは、不倫のエピも込みで、彼が二重スパイ(犯人)である必然性がいまいち分からないってとこ。要するにこのシーンを別の誰かにしても成立する話じゃんって。その辺がインパクト足りなくて正体分かったカタルシスがない。←前回のピカチュウのテキトー設定は「可愛いから許す」って甘々なのに、おっさんには厳しいぞ…。

擁護するとしたら、ミステリーみたいな殺人事件の犯人探しだと動機があっての言動だけど、二重スパイって誰がいつそうなるか分からないって現実と隣り合わせなわけで、復讐や怒りみたいな動機は必要ないし、だからこそリアルって言いたい演出なのかもと思ったりしました。

なんて辛口っぽくなってますが。下に書いてる恋愛シーンや敵の正体なんかも、映画だけ見てると唐突過ぎるけども、原作はスマイリーシリーズとして何作も書かれているそうなので、そちらを読んで詳細や前提が分かっていたらもう少し楽しめるのかもしれません。※欧米では有名だそうなので、みんな原作知ってる前提で作られてる可能性はある。

この映画単独の印象としては、犯人探しよりも、人間関係とか、スパイものの世界観とか、スーツ萌えとか、映像の雰囲気を楽しむ要素の方が大きい気がします。そこは充分面白かった。一方で派手なアクションが好きな人とかハリウッドエンターティンメント的な起伏の激しい映画好きだと途中で飽きそう。恋愛要素もあるにはあるけど断片的。
 

If there’s someone else, you can tell me. I’m a grown-up.

後半ピーターがもしもに備えて身辺整理しろって言われて、次のシーンで男を追い出してると思ったら、それが恋人だったとか。出て行く時の「他に誰かいるなら言ってくれ」って男の台詞で「ん?」ってなって、仕事柄本当の理由を言えないままで去るのを見送るピーターの放心状態からのドアが閉まって泣くシーンで「まじかよ」ってなった。切ないシーンなんだけど、同時にこの映画で私が一番驚いたシーンでもあります。←冒頭のPride Monthの理由はこれである。

今時だと「相手が男だったから驚くなんて差別だ」って言われそうだけど、単純にその前にお姉ちゃんにモテてるシーンあってからの、いきなり登場した男の恋人だったからさ。脈絡なくて驚くじゃん。しかも相手はフツーにおっさんなんだもん。まあ、おっさんと付き合ってるからこそ、お姉ちゃんに気がある振りしたりカモフラしてたのかもしれないけど。老若男女どれが出てきても受け入れる広い心がこれからの時代には必要なんでしょうね。精進します。

恋人は教師らしくてピーターの家でテストの採点してるし、髪の薄さもジムに似てるので最初は彼かと思ったけど、ちゃんと見たら微妙に違うし利き手も違ってて、「誰これ?」ってIMDbで確認してしまった。エンドクレジットにも出てました。名もなき『Guillam’s Boyfriend』は『Rupert Procter』って役者さんでした。少なくとも映画ではこのシーンしか出てこない。こういうところもおっさんだらけで混乱する一因よ。

ピーターは基本はクールで表情変えないキャラだけど、この恋人のシーンとかリッキーにキレてる時とか、たまに見せる感情表現のギャップがあるのが素敵でした。事件解決して恋人とより戻してるといいね。なんて思ってしまった。原作はどうなってるか知らないけど。

他にも、二重スパイだったビルも、移送される前に動機もろもろを語るシーンのところで、恋人たちの整理をスマイリーに頼んでて、そこで彼女と彼氏がいるらしいことが分かったり(And there’s a boy, too.)、最初にブダペストでジムが撃たれた後に殺されず戻ってきたのも、ビルと特別な関係だったから、的なことが言われてたりしてました。最後にジムがビルをライフルで撃ってたのもその辺の愛憎ゆえだったらしい。

そういう経緯を知ってから見返すと、ジムが撃たれた報告を聞いた時にビルが逆上してハンガリー大使館に電話かけたりしてたのも愛情ゆえ?みたいな。その後、家へ行って写真見つけてたのとか。パーティーで見つめ合ってたのとか。。。ここは上のピーターの件ほどはっきりしてないけど、LGBTパート。

男女の恋愛パートは、イスタンブールでリッキーが助けようとした美女との悲恋ですが。情報と引き換えに西側へ逃げるはずが話が漏れてて彼女はKGBに連れ去られて、取り戻したいってリッキーが泣いてた一方で、後半には捕らえられたジムが拷問されてる時に彼女を知ってるか聞かれて知らないって言ったら即撃たれてたシーンがあって、美女はもう死んでるって見てる側には分かるわけですが、その話を聞いてて死んでるの知ってるスマイリーは助けたいってお願いに「最大限努力する」とかフカしてます。この辺が無情さを出してるのかもしれないけど、そもそもリッキーが動いたから情報漏れて彼女は死んでるんだよね。最初から助けなかったら、殴られてても死ななかったんじゃ…、と気づいてしまった。無常だわ。

 
そして、後半特に連呼されてる東側のボスの名前『カーラ(Karla)』。会話には出てくるものの正体は明かされないまま。国へ帰ったら処刑されるはずが、なんで偉くなってたのかも謎。途中まで女だと思ってましたが、女名なのは英語wikipediaの原作のキャラクター設定見たら、コードネームで本名じゃないからみたい。映画だけだと謎だった他の部分もおそらくそちらでは説明あるんでしょう。

スマイリーの妻アンも会話とドレスの後ろ姿やシルエットのみの出演。それで彼女の性格や不倫現場を表現してる。コロンボのうちのかみさん的な。ある意味謎の女ですが、この夫婦は最後はよりを戻してるっぽい。まあカーラとアンはどちらも話のポイントにはなるので姿がなくても無視できない存在です。

※配信元Focus Featuresの関連Webサイトには、台詞だけでなくてト書きも込みの今回の映画の脚本がPDFで公開されてました。

Focus Features
http://academy.filminfocus.com

私がうっかりスマホで踏んでフリーズしたので直接リンクは貼らないけども、
『TINKER TAILOR SOLDIER SPY』のタブをクリック
→右下の『SCRIPT – DOWNLOAD THE SCRIPT』にあります。

公式脚本だけあって過去と現在の説明が『PAST』『PRESENT』って全部書いてあるので、これ見ながら映画見ればややこしかった時系列分かりやすいかも。ただし全部英語で116ページもありますが。

これによるとクレジットには名前のなかったピーターの彼氏も『Richard』って名前ついてたらしいよ。

別れのシーンのト書き。アパートをflatって言うのもイギリスだね。

Guillam doesn’t say anything. Richard puts the flat keys on the side table and leaves.
Guillam, stares after his one time lover, heart-broken.

 
その他、全くどうでもいい話としては、この映画の話題じゃないけれど、友達がコリン・ファースってキュートだよね、とか言ってたので、「キ、キュート???名前間違えて覚えてた?」とまたまたIMDb確認しちゃったけど合ってた。この映画では幹部のおっさんたちの一人なんですが…。まあその中では一番ハンサムだけど。てか他が濃すぎます。でも友達曰く『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズとか恋愛ものやコミカルな役も多くて、そっちのファンにはキュートなお兄さんイメージなんだそうだ。ジャンル違うと見方も変わるね。しかしアカデミー主演男優をキュートって…。

私も今回ピーター演じたベネディクト・カンバーバッチの端正なスーツ姿には惚れたけど、これとマント着て「Dormammu, I’ve come to bargain.」って言ってるヘンな人(だってドクター・ストレンジだし)が同一人物とは思えない。←ファンの人ごめん。役者ってすごいわ。

というわけで――

ここからは乙女の(?)妄言。ブリティッシュスタイルスーツ

いつもはアメリカドラマばかり見ているのですが、男性は割とワイルドが正義だったりするので、ヒゲにTシャツ+ジーンズ+ジージャンorデニムシャツとか、上下ジーンズなんてありなのかよ的なダサい格好も平気で着こなしてます。しかもTシャツはインしてベルトはちゃんと留めていたりして、アメリカ人のファッションセンスが分からないよ!とか画面に突っ込みたくなるようなこともしばしば。

それも好きな俳優がしてればカッコよく見えるけど、でももうちょっとファッショナブルにお願いしますとか画面を拝んでみたりして…。キメてる時もあるんだけど、革ジャンにサングラスとか基本カジュアルなのよね。果てはランニングシャツ姿とかだしさ。スーツ着てもぺらいリーマンスーツとか。これは日本でもよく見るフツーの量産型スーツね。そんなのでも「スーツ着てる」ってだけで嬉しいんだけども。

そういうのを散々見慣れた後に今回みたいなイギリス映画を見ると、ザ・洗練って感じに見える。1970年代って少し前の時代が舞台だからってのもあるかもしれないけれど、もうスーツの生地の厚みから質感から画面通しても違うわって。別に季節が冬だからってだけじゃなく。着こなし方もお洒落で「ああこれはアメドラにはないわー」ってうっとりしたり。←アメドラ全否定かい。。。いやまあ文化の違いって言うか…。

上でも書いた『The Equalizer』なんかはイギリス俳優が出てブリティッシュスタイルの高そうなスーツ着てたし、アメリカのドラマじゃゼロってわけではないんだけども。これもあえてのイギリス人を出してそういう英国紳士的ヒーローを作ってたわけで、純粋なアメリカ人のドラマではないし。実際、脇役のアメリカ人たちはやっぱりカジュアルだった。でもこれが私が初めてはまったアメドラだったので、もしかしたら私の好みの根底はイギリス紳士なのではと今回自分のルーツを再確認したり。

 
ブリティッシュスタイルのスーツの特徴といったら、ベスト付きのスリーピースで襟の開きが小さめでパリッとしてて、場合によってはチーフとかタイピン飾っちゃったりして。更にトレンチコートもあれば完璧です。これを着こなすには紳士でないと。背筋伸びててハンサムでヒゲ剃って髪の毛整えて爽やかな――って、今回のピーターはまさしくそんな格好でした。水色のネクタイが清潔感あって似合ってて、前髪おろしたサラサラヘアスタイルもワイルドさとは対極…。イギリス俳優が好きって人はきっとこういうのが好きなんだよね、分かるーって共感しつつ見入ってしまった。

それで改めてアメドラ・映画のスーツ姿もチェックしてみたけど、お偉いさんやおハイソな人、ビジネスの真面目なシーンとか法廷シーンみたいなのはきちんとしてるものの、みんな隙あらば着崩すし、すぐにネクタイ緩めるしボタン外すしジャケット全開するし、スーツ姿でもやっぱりカジュアルな気がする。シャツのカラフルさとかバリエーションはあるけども、それもカジュアル化につながってる。

対してイギリスは、今回の映画でも緩めてたりボタン開けてる人もいたけど、それでも佇まいが何か違う。テーブルに足乗せてても足組んでても洗練されて見える。やっぱ姿勢の良さ?スーツの質感?常にカッチリしてるって感じだよね。

私がよく見てるジャンルがクライム系やアクションだから、動き回るし着崩すのは仕方ないじゃん、――とも思ったけど、イギリスドラマだとアクションでも割とスーツきっちり着てるのよね。乱れない。スーツの見せ方というか扱い方が違うんじゃないかとマニアックな見方をしてみたり。そういう点でも、日本人は『欧米』って括っちゃうけど、アメリカとイギリスは全然違うなって思います。

なんて書いてるけどイギリスの現代ホームドラマとか見たことがないので、フツーのイギリス人の出てくるドラマはアメドラ並みにカジュアルかもしれない。でもやっぱりイギリスに求めるのは紳士だよ、スーツだよ。
 

とそんな勢いで、この映画を見た当時に似たやつを探して見たので最後に追加。

今回の映画が気に入った人には、2014年のトム・ヒューズ主演の『THE GAME』ってBBCの全6話のドラマをお薦めします。私は安かったから英語版で見たけど、日本語字幕版もあるよ。このパケはスーツ着崩しててアメドラみたいだけど。このドラマもイギリス舞台でスーツ着てて冷戦時代のスパイの話で二重スパイが出てきます。これもいつか感想を書こう。って、私意外とイギリスドラマも見てた。