さて今回は『The Woman King』です。前回が1959年の懐かし映画だったところで今回は2022年の新作です。アフリカが舞台の映画でアフリカ系の役者さんがほとんどの映画で日本未公開です。ソニー・ピクチャーズが配給してるのになんでだ。てっきり日本でも公開されてると思ってて、してないことに気付いて驚いた。公開予定もないっぽい?更にそれに関してアメリカ人に嫌味言われたしー。
「日本人は黒人・アフリカ系(の差別問題)に興味ないからでしょ」って。
アメリカでも日本人というかアジア系は黒人(アフリカ系)差別問題に冷たい人が多いとかは言われてて、アジア系の人からしたらそっちもアジア系差別には興味ないじゃん、みたいな空気はあるっぽい。あまり表立っては言わないものの。
同じような意見は日本語でも見かけたので、日本人もそう思ってると思うけど。勿論、どちらの人種にも差別はよくないって協力し合ってる人もいるけど。
ともあれ、そんな暗黙の了解があるから、日本で公開されてない=アフリカ系の映画には興味ないのねとなったと。
まあ「そうだよ」とは言えないからさ、「日本はアニメが人気だし興行収入ランキングも世界のランキングと違うこと多いから」とこれまたどこかで見た話を理由にしてみたけども。スーパーヒーローものも海外ほど上位じゃないし、ハリウッド映画よりアニメが売れてるし、とかね。
ちなみにこういう日本でハリウッドの影響力が低下してることを、アジア系のアメリカ人は喜んでたりもするので。これも表向きには言わないけど。ポリコレとかってある意味では権利闘争って話もまあ一理あると思うわけよ。
と、胡散臭い話から始まってますが、今回の映画がまあアフリカ系への差別に敏感な人から見ても、アジアで配給されないってそういうことなのって勘繰るくらいの『ポリコレ映画』なんだもん。※アジアと言っても韓国とかでは公開されてるそうなので、日本でされてないだけ…。
一言であらすじ言うと、アフリカの強い女性戦士たちが男たち(敵)を倒すところから始まって、最後はアフリカ人を奴隷にしようとしてた白人男を倒す話だし。ほら、すごいだろう。
どんな話だよって思われそうなのでもう少し詳しく書くと、この映画は1823年のアフリカの現在ベナン、当時ダホメ王国(Dahomey)を舞台に、女性だらけの軍隊アマゾネス(Agojie)がヨーロッパにアフリカ奴隷を売ろうとする隣国オヨ王国(Oyo)=現ナイジェリア辺り、との戦いを描いた実話をベースに思い切り改変しまくった物語であります。
アフリカ系の活躍した歴史を探して映画を作ろうってハリウッドの流れは日本の信長時代の弥助でもありましたが、映画化は主演予定の役者さんがお亡くなりになって中断してますが――、これもアフリカの歴史から映画になりそうな女性たちの活躍を発掘してきて見つけたらしい。
そして史実をフィクションでコーティングしまくりつつ映画化した――みたいな。なのでポリコレ映画ってのは批判じゃなくて事実。英語版DVDのパケには「Based on true events」ってありましたが、ほんとの話を元に、じゃなくてほんとのエピソードを元にした話らしい。微妙な違い分かりますか。
そもそもポリコレってネガティブにとられがちですけど、別のページでも書いたけど、ハリウッドでは白人だらけの映画は当たり前に受け入れてるのにアフリカ系だらけだと「配慮だ」ってなる認識を正すために、いろんな映画が出てくることは悪いことではないと私は思っています。こういう映画が増えてくれば、次世代の子たちにとってはアフリカ系だらけの映画も『普通』になってくわけだし。
ただそれを白人製作者たちが白人を下げつつ作るところが自虐史的にも見えたりして。少し前まで奴隷商人なんかもヒーロー扱いしてたくせにと。『配慮』って意識してしまうのはそこよね。
まあリベラルな人たちは歴史に埋もれたアフリカ系の人たちの素晴らしい話を発掘して映画化しようって前向きに捉えているんでしょうが、その結果が野蛮な白人奴隷商人を成敗するで、今までのお返しを盛り込んでるところがね。よくそこまで作るよなというか。
ちなみに1823年と言ったら日本では江戸後期。日本は鎖国してたけど、シーボルトが来日した年であります。世界的にスペインとポルトガル辺りの貿易が盛んだった流れはつながってる。
そういう俯瞰で見るとアフリカにもそうやって宣教師やら商人が来たんだなと思う一方で、日本は鎖国によってこの時代は奴隷貿易はもう厳しく取り締まられてたけど、アフリカはそうではなかったんだろうなとか思ったりして。
とはいうもののアフリカの歴史ってヨーロッパ史に比べると日本じゃ人気ないし(私も詳しくない)、日本で興行収入を稼げるかって言ったらまあ難しそうなので、日本公開されてない都合も分かる気がする。アカデミー賞でもスルーだったようなので商業的アピールもできないし。
しかし白人様の国の歴史の話なら興味持つのに、アフリカの歴史に興味持たないのは差別!って言われると、確かにね、と思わなくもない。
そんな反省はするものの、私もアフリカ史は奴隷制とか西洋史の延長でしか記憶してないので、今回も史実がどうとかは語れませんけど。
pdf直リンはこれ。
https://deadline.com/wp-content/uploads/2022/12/The-Woman-King-Read-The-Screenplay.pdf
アフリカ訛りの英語
差別の話ついでに脱線しとくと、今回の映画を見るにあたって私はもちろん「英語字幕くれー」って表示してもらったわけですが(アフリカの固有名詞も分からんし)、ハリウッド映画なのでほぼ英語で喋ってる(ポルトガルの奴隷商人たちはポルトガル語で喋る)映画なのですが、舞台がアフリカということで役者さんたちはアフリカ訛りの英語を話してます。んで、私の友達のアメリカ人も見てて聞き取りにくいから「英語字幕くれー」ってなってた。笑。
逆にアメリカ人はこの程度の訛りで分からなくなるのかって思ったりしたけども。私の日本語訛りのがもっとひどそうですけども!←威張るな。ここは慣れもあるらしい。
さてここに関しては、実際はアフリカも植民地化して英語やフランス語スペイン語とか喋ってた地域はあるけども、王国は現地語喋ってるわけで、アフリカ訛りの英語ってのが本当はおかしいわけですが、アフリカらしさの演出でそれは可とされてるようです。ポリコレ映画であってもさ。さすがに現地語喋らせて全編英語字幕にするほどのリアリティは持たせてないってわけ。
これは海外で日本が舞台の映画を作る時もそうで、出てくる人がアジア人でもみんな英語で喋ってしかも流暢だったりします。けど日本らしさを出すために『アジアンアクセント』を強調したりする。アジア系アメリカ人の役者さんがいつもはネイティブ喋りしてるのに役柄としてアジア調の訛り強調してたりよ。
それもそれで役だから許されてるわけですが、一方で昨今はアジア人や英語ネイティブ以外の英語を笑うべからずになってます。どうしてもLとRが混じるとかさ、真似したりからかっちゃいけないって。そういうのを笑うのは不快ってアジア系アメリカ人の役者さんたちがアメリカの差別問題に絡めて訴えてたりするわけよ。
で、そのたびに思う。「お前らも映画やドラマで強調して喋ってるだろ!」と。彼らが大袈裟にそういう演技するから余計に周知されるじゃんよ。彼らは共犯でもある気がするんだよね。まあアジア系は立場が低いから脚本に従うしかない~みたいな弁護もあるけども。
一方で私たちの拙い英語のせいで、アメリカ生まれ育ちのアジア系アメリカ人の英語ネイティブの皆様もまとめて馬鹿にされるのは申し訳ないとも思ったりする気持ちもあるんですが。
と、そういうモヤモヤを今回のポリコレ映画であっても架空のアフリカ訛りが許される点で思い出してしまったりして。アフリカの人も、アフリカ系アメリカ人が変な訛り強調して喋ってるの見たら、なんだよーってなるかもしれないよ。と思ったが、メインヒロインの一人はアフリカの女優さんであった。
映画のらしさの演出のために強調するのは許されて、実際では指摘するのは許されない。ダプスタだよね。なんて、やっぱポリコレってどうやっても文句は言えるもんだと思った。笑。
さて、ポリコレにポリコレをぶつけて一人スッキリしてみたところで、映画の話に入ります。
完全にネタバレしてるあらすじ
※現地名とか日本語表記ができないというか分からないので、ここから下は名前とかは全部英語表記にしてます。
隣国Oyoにさらわれ奴隷として売られそうになっていたDahomey王国の女たちを解放するため、女だらけの戦士たちAgojieがリーダーNaniscaの指揮の元に戦うところから物語はスタート。それによりDahomeyの王様Ghezo(タイトルに反してここは男性で日本でも人気のジョン・ボイエガが演じてる)が隣国との戦争を予感してる。Naniscaは奴隷の代わりにパーム油を精製して売ったらとか提案してる。
Agojieらの凱旋を国の人たちが沿道で称えていたけれど、その中の一人Nawiは父親に年上の男との見合いを勧められて暴力的な相手が気に入らず反抗したことから、王の元にAgojieになれと売られてしまう。
NawiにはIzogieという先輩指導者がつく。彼女の言うことは絶対と言われるもののNawiは初心者向けのトレーニングが気に入らずに剣を使う派手な方に惹かれてみたり、男性戦士は銃を使ったり妻子がいるのに女性戦士は戦いだけに身を捧げるのは平等じゃないとか言ってみたり、自己主張しては諭されてる。
Naniscaは時折悪夢を見てる。最初の戦いで逃げてったOyoの男性戦士リーダーObaの耳の拡張ピアスみたいなのが彼女の悪夢に出てくるから大体予測はつくけども、彼らとの再戦の時もAgojieに逃げろと言って一人Obaとの戦いを続けては危険なところを命令に背いたNawiに助けられたり、でも叱ったり、Obaとの因縁が見えてる。NaniscaはNawiに単独行動すると殺されたりもっとひどい目に遭うと諭してる。
その頃、ポルトガルの奴隷商人の白人男Ferreiraと、母がDahomeyから奴隷として売られたというハーフ(ミックス)のMalikがOyoとの取引の流れでObaに案内されてやってくる。Malikが川で水浴びしてるのを偶然見かけたNawiは彼と仲良くなる。Malikは母が奴隷だったこともあって奴隷貿易には否定的。
その後Nawiの肩の傷にNaniscaが気付いたとこで、父親に売られたはずのNawiが孤児だったのを父に拾われた話をしてたりで、Naniscaは動揺してる。Dahomeyの王様は奴隷売買は止めるって商人に告げて、彼らの交渉を別のものでかわそうとする。Malikと密会してるNawiは奴隷を売ってもらえなかったObaたちが襲撃を企んでることを教えられる。
その話をNaniscaに報告に行き、NawiはMalikとのことで苦言言われて反論してると、Naniscaが過去を語り出す。若い時にObaに捕まって強○されて子供ができたと。上で言ってた単独行動してひどい目に遭ってたのは彼女自身と。赤ん坊は手放したけども肩にサメの歯を埋め込んだって。Nawiは肩の傷を抉ると中からサメの歯が出てくる。つまりは彼女がNaniscaの娘だったと。
そして話通りObaたちOyo国のやつらがDahomeyに攻めてくるけども、彼らを撃退するAgojieたち。しかしNawiとIzogieと仲間たちはObaたちにさらわれて奴隷として売られるために檻に入れられてる。そこから逃げ出そうとしてIzogieは撃たれ、NawiはMalikの機転で買われて助けられてる。Malikは奴隷売買にはもう関わらずイギリスへ行くからと彼女を誘ってる。
王Ghezoがその座を譲るって話を蹴って、Naniscaは捕虜になった娘であるNawiやAgojieたちを助けに行こうとすると他の仲間たちもついてくる。そして町に火をつけて白人商人たちを倒したり、因縁の相手であるObaをとうとう倒したり。海外で待つというMalikと別れたNawiはAgojieとして戦いに加わる。
奴隷商人のFerreiraは鎖でつないだ奴隷とともに船で逃げようとするけども、Malikが奴隷を解放して、多勢の彼らにFerreiraは海に沈められてる。戦いを終えてAgojieたちと国へ戻るNawiはそんな様子を遠目に見て、Malikと目を合わせて去っていく。
王の命令に背いたことをNaniscaは謝罪と戦士を辞めようとするけども、王は彼女を次の女の王として迎え入れる。そしてAgojieたちが躍る中、NawiはNaniscaの苦しみの相手であるObaの血が流れてることを謝りつつ彼女を母として受け入れると。
ラストの方の流れ、ヨーロッパから未開の大地に現地の仲間を売りさばこうと企む悪い白人商人と一緒に良い白人がやって来て、悪い商人は退治されて良い白人は受け入れられるって大雑把な流れはディズニーの『ターザン』を思い出したんですが。笑。
ターザンが悪いやつらを倒した後に、良い白人娘のジェーンと教授のパパはジャングルに残ることを選び、ターザンと結婚して森の動物たちと仲良く暮らしていたわけですが、こっちはMalikは戻る予感を残しつつ去って行ったと。
最初の頃にNawiが男性戦士は銃使えるし妻帯できるのに女性戦士は結婚もできないのは不公平――みたいに言ってたので、ここで平等になる流れかと思ったらそれはなかった。
とはいうもののタイトル通りの女の王が即位して(日本語だと直訳で女王になってしまうけど、英語タイトル通りQueenではないのです)も、女性は結婚も駄目だとどのみち滅びるわけで。男の王様は一夫多妻なのか奥さんたちがたくさんいたけども、Naniscaの女の王様は子供産めなさそうな年に見えたし。←失礼な。娘がいるから次に続くって話はあるけども。
Sony Pictures Releasing『The Woman King』
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まあこの辺は創作で、史実だと男の王様Ghezoが隣国Oyoのヨーロッパへの奴隷献上を終わらせ後に再開し、この映画より後の時代に暗殺されて息子が継いでるらしいので、女性の王様自体がフィクションなんですが。彼の活躍の裏には女性たちがいたというお話ですね。
そしてもうひとつの史実では、王国の女性戦士Agojieの最後の一人の名前はNawiだったそうで、この映画のNawiも同じ名前がついてるので、彼女が最後の戦士なのかもね。
映画の話に戻ると、この映画に出てくるキャラクターたちはNaniscaが囚われて娘を産んだり、その娘Nawiも養父に売られたり、Malikの母は奴隷だったとかヘビーな話は多いですが、それ以外のメンバーも軒並みヘビーな過去ぞろいです。
Izogieは母親に売春させられて客を燃やして逃げて来たとか。そもそも王様も兄が母を奴隷として売ってクーデターで即位したみたいな話があったりしてる。Malikと一緒に育った白人商人のFerreiraも、奴隷売買を否定するMalikにお前があそこにいなくてよかったろみたいなこと言って、実は彼を差別してたとか。
こういうのがアフリカの奴隷史なんでしょう。映画以上に現実もいろいろひどいので、まあ白人が自虐するのも当然かと観てから納得してみたり。
その他どうでもいいところとしては、Malikの役者さん(Jordan Bolger)はイギリスの方で、イギリスBBCのドラマ『Peaky Blinders(ピーキー・ブラインダーズ)』では主人公たちのギャングの一味として出てきてます。この映画とはどう見ても方向性違うドラマだけど、そっちもみんな見てね!
というわけで。
最初に散々ポリコレ映画と言ってしまいましたが、このアフリカの王国の世界観は白人だらけのハリウッド映画にはないもので尊重されるべきだし、キャラはヘビーながらもストーリーとアクションは純粋に楽しめました。
話は予測通りもあれば意外性もありつつ面白かったし、大奥チックな女たちのドロドロもちょっとありの仲間や家族の話もあり、女たちのアクションシーンも動きに切れがあってカッコよかった。
機会があったらみんなも見てね!って、まあ、この先、公開、されるかも…。配信の可能性もあるし…。