今日4月10日はアイルランド内戦で反条約派(anti-Treaty)IRAの司令官として戦ったリアム・リンチ(General Liam Lynch)の命日です。前回に『Resistance(Rebellion リベリオン: Series 2)』の下の方で書いたように、彼の死によってこの内戦は実質的に終わりました。
というわけで今回は『Michael Collins(マイケル・コリンズ)』とどちらを先にするか迷ったけど、主人公が同じく反条約派ということでこちらを。2006年のアイルランド・イギリス共作映画です。この映画にはリアム・リンチは出てこないけどさ。そして多分次は『Michael Collins』の方かな、といきなり次回予告。そちらは条約を締結した側です。
独立戦争では彼らは共にイギリス側と戦ったけれど、英愛条約をめぐって決裂します。そして内戦になり敵対した――というのが史実ですが、今回の映画もそんなアイルランドの歴史をベースにしています。
でも悲しいことにこの映画、今は日本語版『麦の穂をゆらす風』はDVDも廃盤になっているようで中古もプレミアム価格です。なので今回は英語版で書いてます。見る機会があったらぜひ見てね。楽しい話ではないけども。主人公はアイルランド出身のキリアン・マーフィー(Cillian Murphy)が演じていますが、彼のファンとかでうっかり見てしまうともれなく鬱になれる映画ですって念のため書いておく。
タイトルは同名の『The Wind That Shakes the Barley』という『Irish rebel song(反逆歌、抵抗歌、反英歌とか訳されるイギリスに対抗した歴史を歌ってるアイルランドの歌)』から来ていて、映画の中でも歌ってるシーンが出てきます。他にもアイルランド語で歌われてる『Oró Sé do Bheatha ‘Bhaile』ってテーマソングも映画の時代に歌われていた反逆歌。このジャンルの曲は数百年前から近年のものまで幅広くて、アイルランド共和国の国歌『The Soldier’s Song/Amhrán na bhFiann(兵士の歌)』もIRAが歌っていた由緒正しき反逆歌だったりする…。
脱線ついでにもうひとつ書いとくと、冒頭でやってたスポーツは『ハーリング(Hurling)』というアイルランドではメジャーだけど、ほとんどアイルランド外では知られていない伝統的な球技だって。私もアイルランド映画でしか見たことない。アイルランドの人によると、本当はもっとスピード感があって激しいスポーツだけど、映画の俳優はただ棒振ってるだけで全然なってない…らしいよ。笑。と、ちょっとだけ笑いの要素を入れつつも、映画自体はシリアスです。
時代設定は1920年~1923年くらい。その間に起きた独立戦争から条約締結、内戦までの流れは『Resistance』も『Michael Collins』にも出てきます。なので被るシーンもありますが、それら二作は実在の人物・エピソードを混ぜつつのダブリン(城)周辺の物語で、こっちは地方コーク州が舞台のほぼフィクションエピソード。本物のマイケル・コリンズは実録映像で登場してますが、それ以外はフィクションキャラクターです。
映画の話に入る前に、大雑把な時代背景とか
舞台や出てくる団体の説明は『Resistance』で書いたけど、改めてこちらでも書くと、この時代アイルランドはイギリスの統治下にありました。
1916年4月24日~29日イースター蜂起(Easter Rising)。イギリスからの独立を求める共和主義者が武装蜂起したものの、ほぼ一週間で収束し、首謀者たちは簡易裁判で処刑されました。その不当さに市民の同情も集まり独立機運が高まりました。
1919年1月21日にはシン・フェイン党(Sinn Féin)が『アイルランド共和国』を宣言します。同じ日にIRAのメンバーが警察と衝突して独立戦争が始まります。
Resistance(Rebellion: Series 2 リベリオン: シーズン2) [2019 RTÉ]【前編】ネタバレなし・ドラマの概要と感想
敵は純粋な英国陸軍(British Army)と補助部隊(Auxiliary Division; Auxies)だけでなく、彼らの配下にある王立アイルランド警察隊(Royal Irish Constabulary; RIC)、そして1920年には第一次大戦の復員兵で編成されたブラック・アンド・タンズ(Black and Tans)もイギリスより送り込まれます。特にブラック・アンド・タンズは凶暴でアイルランドの市民にも暴力をふるっていまだに嫌悪されている存在です。この映画でもやっぱり残酷なシーンが出てきます。
アイルランド側の軍は、IV(Irish Volunteers)、IRB(Irish Republican Brotherhood, アイルランド共和主義同盟)などのボランティアによるゲリラ組織を経た『Irish Republican Army=アイルランド共和(国)軍』で略してIRA。
長い時代を得て組織が分裂したりで近年ではテロ組織としてニュースになったりドラマに出てくるばかりですが、当時のIRAは政府軍で今の組織とは別物とされています。と言っても勝手に独立宣言した国の軍隊なのでやっぱりイギリス側から見たらテロリストみたいなもんだけど。
武力戦力も全然違うので、彼らはゲリラ戦でイギリス連合側と戦います。ついでに武器も強奪したり、第一次大戦のイギリスの敵であったドイツやロシアから密輸したり。兵力には彼らに共感した一般人や農民や労働者のボランティアも加わります。また市民もイギリス側を恐れつつ、ひそかに彼らに協力したり、資金援助したり。
そんな状況なので、イギリス側は不穏分子の彼らを捕まえると共に、ダブリン城(The Dublin Castle)で共和国側の活動員やスパイを探したり、逆に自分たちのスパイを送り込みます。その辺の話が『Resistance』ではメインになってました。
そしてIRA側もスパイを探し出し祖国に対する裏切者として処罰したり。IRAの諜報担当でもあったマイケル・コリンズの指示でこれが大々的に行われたのが『1920年11月21日血の日曜日事件(Bloody Sunday)』午前の部で、このエピソードは『Resistance』にも『Michael Collins』にもでてきます。※この映画には出てこない…。
その1週間後、1920年11月28日にはアイルランド南部のコーク州キルマイケル村でトム・バリー(Tom Barry)指導の下、IRAメンバーがRICを待ち伏せの上襲撃した『キルマイケルの待ち伏せ(Kilmichael Ambush)』という事件も起こります。それが成功したことで、IRAの士気が上がったり、イギリス側の締め付けが激しくなったりします。
※この映画のお祈りの後、主人公たちが岡の上で待ち伏せしてRICメンバーを襲うシーンは、このエピソードをモデルにしていると言われていますが、ディテールは違ってます。IRA側の一人が補助部隊の制服を着て待ち伏せしていたのはイギリス側の証言に基づいているけれど、史実自体も双方の言い分が食い違っていたりする。
有利と思われていたイギリス側ですが、弾圧が世界に避難されて風向きが変わったりゲリラ戦に手こずったりで、なんと休戦を申し込んできます。長期化すると不利と悟っていたアイルランド側はそれを飲み、1921年7月11日に戦争は終わり、条約の交渉に入りますが――
その条約は、アイルランドが宣言した共和国は認めず、あくまでもイギリスの自治領である自由国だった。更に北アイルランドはその前の条約により分裂したままだった。海軍基地の使用許可とかもあるけどそこはあまり問題になってない。
あくまでも北と南の統合を求めると共に、共和国への忠誠を誓って命を懸けているのにイギリスの国王に忠誠を誓うなんて認められない、一度自由国として条約を結んでしまったら共和国も民主化も無理だと反対する人もいましたが、1921年12月6日の調印後の議会投票では僅差で条約賛成派が勝ち、国民投票でも勝利して、英愛条約(Anglo-Irish Treaty)は批准されます。
ですがエイモン・デ・ヴァレラ(Éamon de Valera)を筆頭にした反対派はそれを認めず、彼は大統領を辞任して議会を去ります。両者の溝は埋まらず、反条約派による1922年4月のフォー・コーツ(Four Courts, 裁判所)占拠、6月のダブリンの戦い(Battle of Dublin)を経て、遂に内戦が勃発します。元々戦力不足だったIRAの中で更に分裂してるわけで、しかも賛成派=自由国軍側にはイギリスがついてるわけなので、最初から反条約派には不利な戦いでした。
賛成派というか条約結んだメンバー当人のマイケル・コリンズはその内戦で命を落としますが、反条約派の劣勢は変わらず、追い詰められる中で遂に司令官のリアム・リンチも撃たれます。それが1923年4月10日。彼の後継者は投降を選び、1923年5月24日反条約派の敗北として内戦は終わります。
※ただし勝った賛成派はもはや共和軍ではない(自由国軍)ので、内戦後『Irish Republican Army=アイルランド共和(国)軍=IRA』と呼ばれるのは、あくまで共和国を求めた反条約派の生き残りの人たちです。
しかしその後も賛成派と反対派の対立は続き、賛成派は『フィナ・ゲール(Fine Gael, 統一アイルランド党)』の前身党を、生き残ったデ・ヴァレラは『シン・フェイン(Sinn Féin)』を離れ『フィアナ・フォイル(Fianna Fáil, 共和党)』を作ります。※これらの政党は今も存続してます。
彼はそれから約十五年かけて自由国憲法からイギリス国王への忠誠を削除させたり、大統領制を採用したり、共和国化への転換を進めていきます。1937年エールとなり、1949年にはイギリスから離脱してアイルランド共和国になります。けれど北アイルランドはイギリス領のまま。
1946年頃。戦後。共和国首相となったデ・ヴァレラはアメリカやオーストラリアなどを外遊し、イギリス統治下での南北分断は不当だと統一キャンペーンをしました。
1960~70年代には、アイルランド統一を目指すゲリラ組織としての暫定IRAの活動が活発化し、それと同時に、北アイルランドのプロテスタント系ゲリラ組織UVF(Ulster Volunteer Force,アルスター義勇軍)などの報復活動も激化。北アイルランド紛争が起こります。
※IRAに対立するUVFと呼ばれる組織も、独立戦争当時はイギリスに認められた義勇軍でしたが、1966年に同名組織として復活したものはテロ組織として認定されていて、当時とは別物とされています。昔の組織は「アルスター義勇兵」今のは「アルスター義勇軍」と分けている文献もある。→彼らについては、『Peaky Blinders(ピーキー・ブラインダーズ)』の下の方で書いてます。
1998年4月10日の『ベルファスト合意(The Good Friday Agreement)』で和平合意がなされますが、南北統一を求める今のテロリストとしてのIRA、対するUVF共に消えたわけじゃない。イギリスのEU離脱でこの先どう変わるのか――というのが現代までの歴史。
※近年の北アイルランド紛争まで含めた(テロ組織の方含めた)IRAの歴史は、『Peaky Blinders: Series5(ピーキー・ブラインダーズ: シーズン5)』の四角で囲った脱線コーナーで書いてます。
これがざっくりとした映画の背景です。北アイルランドとの分裂はカトリックとプロテスタントの宗教対立もあったりで、いろいろ複雑です。
Resistance(Rebellion: Series 2 リベリオン: シーズン2) [2019 RTÉ]【後編】ネタバレ感想とモデルになった人物話
映画のあらすじ(完全ネタバレ)
1920年コーク州の田舎町が舞台。医師である主人公ダミアン(Damien O’Donovan)と兄テッド(Teddy O’Donovan)と仲間がいるところから物語が始まります。独立戦争に対する弾圧は地方にも及び、ある日、彼らのもとにブラック・アンド・タンズがやってくる。それぞれ名前や仕事を尋ねられているけれど、仲間の一人ミハエル(Micheál Ó Súilleabháin)は自分の名前を英語で言えなかったせいでブラック・アンド・タンズに捕まって殺されてしまう。
彼らの横暴に対してIRAとして戦うと決心を固めるテッドや仲間にダミアンは誘われるが、戦力の差を指摘し、ロンドンの病院で働くために汽車に乗ろうと駅へ向かう。けれどイギリス軍の搭乗を拒んだ鉄道員が暴行されているところを助け、地元にとどまって戦うことを決心し、誓いを立てます。
彼らは山でトレーニングを積み、RICのバラックを襲撃して武器を奪ったりする。彼らを追うイギリス軍がアングロ・アイリッシュの地主の元へやってきて、そこで働くIRAメンバーの一人クリス(Chris Reilly)にテッドの居場所を吐くように迫ります。
その情報により彼らIRAメンバーは待ち伏せ去られたイギリス軍に捕まって、テッドは隠れ家を吐けと言われて拒んだために軍人に爪剥がされたりしてる。ひー。ダミアンも軍人の尋問に反抗して自分たちは共和国を支持してるとか思想をまくしたててる。その後の牢獄の中でダミアンは鉄道の事件の時にいた運転手ダン(Dan)に会う。
彼らの牢獄にアイルランド系英国人兵士がやってきて、脱走の手助けをして、ダミアンやテッドやダンたちは助かるけれど、鍵のなかった仲間三人は牢に取り残される。
IRAの諜報により地主とクリスが情報を漏らしていたと突き止めて、彼らは二人を捕まえると共に、地主を脅し、軍に人質を解放させるための手紙を書かせて交渉するけれど、イギリス軍は三人を拷問の末に射殺したと連絡が届く。そしてスパイを処刑するように指示を受ける。
先に地主を、次に幼馴染で友達のクリスを撃つダミアン。親に渡す手紙はないのか聞かれて幼馴染は母は字が読めないし何書いていいか分からないと言っている。代わりに地主のそばには埋めないで、母に居場所を教えてと伝えて処刑されてる。
その後ダミアンは恋人シネード(Sinéad)に約束通り彼の母の元へ言った時のことを話す。母は最初は喜んで彼を受け入れたけれど息子の死を聞くと、埋めた場所へ連れて行けと言った。墓のある山の上の礼拝堂までの六時間は一言も話さなかった。そして息子の墓の前でダミアンに向かって「二度とあんたの顔は見たくない」と告げた。
彼らはその後も補助部隊を襲って武器を奪い、戦争を続けます。報復としてイギリス軍はシネードの家の農家を襲撃して火を放ち、彼女の髪を刈っている。
※女性の髪を刈るシーンは『Resistance』にも出てきますが、身内を狙うことでの相手に対する警告と、髪の毛を切られた女性本人に対する侮辱や裏切り者としての辱めとかの意味があったらしい。髪の毛だけじゃなくて、もっとひどい目にあうこともあったらしい…。
そんな矢先に彼らの元にイギリスとIRAの休戦の連絡が届く。お祝いをして英愛条約が結ばれたという記録映像を見ている町の人たち。本物のマイケル・コリンズたちの記録映像が流れてます。
その映像によって、アイルランドは自治領として『アイルランド自由国』になるとわかる。そしてイギリス国王に忠誠を誓うという説明で画面に突っ込む人々。ダミアンも何のために戦ったのかと怒ってる。更に北アイルランドはイギリス領に残るという話が彼らの怒りを駄目押ししてる。
テディたち賛成派は条約によって平和が訪れ、後に利益がもたらされるというけれど、ダンやダミアンは反対する。シン・フェイン党がアイルランド共和国を宣言した時の、国の所有も全てのプロセスも国民のものという共和国の誓いを読み上げる。子供たちの将来のためにも平等なチャンスが必要だからと条約の反対を訴える。
しかし自由国がイギリス統治にとって代わり、テディたちは自由国軍として彼らの制服を着て任務にあたるようになる。ダミアンたちは反条約IRAとしてトレーニングを続ける。
1922年4月反条約派がダブリンのフォー・コーツ(Four Courts)を占拠し、自由国軍側(マイケル・コリンズの指示だけど映画ではそこは描かれてない)が砲撃してアイルランド内戦に突入する。テディは戦争が激化するとイギリス側が再び占拠するのではと心配している。
教会では司祭が条約の有効性を説得し、カトリック教会全体の見解として反条約派には秘跡の授与を拒否し破門すると宣告する。ダミアンたちは教会は金持ちの味方だと怒って席を立つ。
彼は追いかけてきた兄テディに、この国では4人に1人が失業しているし、飢えた子供や家族もたくさん見てきたという。夢物語を語るなと説得されても自分は現実主義者だと訴え、自由国軍の制服を着る兄をイギリスの下僕だと罵って去っていく。
反条約派は自由国軍舎を襲撃し武器を奪おうとして軍に見つかり、ダンは殺されダミアンも捕らえられる。牢獄はかつてイギリス軍に彼らが捕まった場所。兄テディは弟の処刑を回避するために、彼らが盗んだライフルを隠している場所を教えるよう促す。そして釈放後の恋人シネードとの生活や家族たちと暮らす夢を語り説得する。
『The Wind That Shakes The Barley』
You listen to me. I shot Chris Reilly in the heart.
I did that. You know why. I’m not going to sell out.
けれどダミアンは、幼馴染クリスをどうして殺さなければならなかったか――スパイとして処刑したことを語り、自分は仲間を売ることはしないと断言する。兄は弟の決意を知ってそのまま牢屋を後にする。ダミアンは恋人への別れの手紙を書く。
夜が明けて処刑場。テディは泣きながら命令を出し、ダミアンは処刑される。彼の手紙をシネードに持っていくと、すべてを悟った彼女は「二度とあんたの顔は見たくない」とテディを追い出して泣き崩れた。
共和国への誓いと内戦
『Resistance』でも最後に条約が締結され、主人公は自由国側についたものの、彼の姪や仲間、司祭たちが反対派に周り、新たな対立の予感を残して終わりました。映画『Michael Collins』も主人公は当然自由国側だけど仲間であり恋敵だった親友は反対派として亡くなります。この映画でも、自由国側についた兄と反条約側の主人公が対立し、そのため兄は弟を捕らえ、そして殺すことになる――という最後です。
先の独立戦争を共に戦った仲間や家族が、条約を巡って敵と味方に別れるという悲劇がこの内戦なので、そこは必ず描かれると。
ですが彼らも身内同士が殺し合うことになる内戦を望んでいたわけではありません。
内戦の契機となった1922年4月のフォー・コーツ占拠も、反条約派が建物を占拠したのは、彼らがそうしてイギリスに対立することで、条約賛成派も考え直して共に戦う道を選ぶのではないかという理由からでした。
一方で条約賛成派は、反条約派に建物を占拠され、自治がままならない状態が続けば「やはり自分たちが統治しないとどうにもならない」とイギリスが出てくることを畏れて、砲撃を指示します。そして内戦が始まりました。
両者共に、できれば身内同士で争わずに解決したいと思っていたのだけれど、その方法がすれ違いになってしまった。
それぞれの言い分はこれ。
条約賛成派(pro-Treaty)
- 条約を破棄したらまた戦争になるが武器と戦力がもうないから休戦がベスト。
- これ以上の犠牲を出さないためにまずは自由国で妥協して、いずれ共和国へ。
条約反対派(anti-Treaty)
- 共和国に忠誠を誓ったのだから、それを翻すことは誓いに背くことになる。自由国(自治領で主権はイギリス国王)でイギリス国王に忠誠を誓うなんてできない。
- 武器がなくても命がある限り共和国を守るべきだ。
- 北アイルランドも合わせてひとつの国だから分裂は許さない。
まあ反対派は強硬派というか融通がきかない面はある。初めから負け戦でもありましたが、敵に頭を下げるくらいなら死を選ぶという潔さが一貫してて、私が個人的に感情移入してしまうのはこちらなんだけども。
賛成派の方が現実的であって、今の評価でもこちらが正しいと言われることが多い。特に近年はマイケル・コリンズがヒーローで、反条約派とエイモン・デ・ヴァレラは悪役になってる。※この辺は賛成派に由来した政治政党『フィナ・ゲール(Fine Gael)』がコリンズを英雄視したり、1996年の映画『Michael Collins』で大体的にキャンペーンをしたりといった政治的な事情もあるらしい…。
でも最初の時代背景のところで書いたようにデ・ヴァレラは内戦後にもひたすら共和国を求め、世論を味方につけて地道に法を変え、その結果アイルランドは共和国化に成功してます。何度も首相になり、第二次世界大戦後の近年にも大統領になってたくらいだし、彼の貢献を評価する人もいる。
また更に賛成派の視点では描かれない分裂の理由のひとつに、貧富の対立もあります。
条約は地主や裕福な人には恩恵が多かった一方、貧しい人にはイギリス統治時代と変わらない。ゆえに反対派は労働者や農民、貧しい人が多かった。国民の一人一人が共に国を作るという共和国は貧しい人たちにとっては希望だった。だから彼らは不利を承知で命を懸けて戦ったのです。
映画『Michael Collins』ではその辺は全く触れられていません。
今回の映画の監督ケン・ローチはイギリス人だけど貧困とかの社会問題を扱っている人なので、その辺にも触れてる。主人公は医師ですが、子供の具合が悪いと見に行ったら半餓死状態。条約が批准されても貧しい人の暮らしは変わらない。それを訴えるシーンはたびたび出てきます。彼が反条約派になってるのも、貧しい人が救われないままだから。
『The Wind That Shakes The Barley』
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とはいうもの、どちらが正しいという話ではありません。身内同士が殺し合いをした内戦であるがゆえに、長いことアイルランドでもタブー視されていて表立って話す人は多くなかったようですが、それぞれに言い分や正義があったというだけ。
この映画も、結論が出ないところで終わってる。争わないに越したことはないけれど、そうせざるを得なかった歴史の物語だから。