※2021/2/13 クイーン・ラティファ(Queen Latifah)版の『The Equalizer』2021年版はこちら。
『The Equalizer』はRobert McCall(ロバート・マッコール)が人助けする一話完結のテレビシリーズです。本国アメリカでは1985-1989年に放映されてましたが、日本は約10年遅れで『ザ・シークレット・ハンター』という名前で深夜に放映されていました。黒沢良さんの声が渋くてよかったよ。私は当時それにはまってビデオに撮ってくり返し見ていましたが、後に北米版DVDをバラで買ったりコンプリート版を買い直しました。
ちなみにDVDは複数メーカーからコンプリート版が出ていて、それぞれ激安だったり、エドワード・ウッドワードの主演の『CI5: The New Professionals』って別のドラマや最後の主演映画まで入っていたり(もう無茶苦茶…)、インタビューとか特典が違っていたりで迷うところなのですが、リージョン1の北米バージョンはライセンス切れのために音楽が半分くらいテレビ放映時と変わってるそうな。
完全に元のスチュワート・コープランドの音楽で見たい人はイギリスのメーカーFabulous Filmsから出ているリージョン2『The Equalizer:Complete Collection of DVD』ってセットをどうぞ。うちもVEI版よりちょっと高いけどこれ買ってます。私がこれにしたのは音楽もあるけど、VEIは安い代わりにチープでプアクオリティとかレビューに書かれまくってたから…。
でもこれらは日本語どころか英語字幕もありません(※英語字幕があったのは大昔Universal Studiosから出てたシーズン1のDVDだけで、シーズン2からはVEIに移って字幕もなくなってます)。私も気合で見てます。
(※日米Amazonの価格は、映画版『The Equalizer/イコライザー』の公開が近づいた頃に、オリジナルを見たい人の需要期待か、急に数倍に跳ね上がってたので、笑、急いでない人は落ち着くまで待ちましょう…。)
Got a problem? Odds against you? Call the Equalizer 212-555-4200
舞台はニューヨーク。イギリス俳優の故エドワード・ウッドワードが主役で、彼の演じる主人公ロバート・マッコールは元CIA諜報員でリタイヤした白髪の紳士です。イギリス軍人の父とアメリカ人の母の元に生まれた設定ですが、生活様式はアメリカ人が憧れるヨーロッパ(イギリス)って感じ?ブリティッシュアクセント(細かく言うとOld Etonian accentってやつらしい。イートン校出身者が話す英語だって。=つまり役柄として育ちの良さを匂わせてる)で、いつもスーツに冬はトレンチコートで決めて、ジャガーに乗ってカルティエの金時計をして、高級アパートメントで優雅なリタイア生活をし、新聞広告を見て助けを求めてきた人たちを無償で救います。高級ワインを飲んだりピアノ弾いたりもしています。さりげなく高価って感じで決して金ピカ成金ルックではありません。そして何かとおハイソです。やたら姿勢も良くていつも堂々としてます。
私生活では妻と別れていて、二人の間には息子スコットがいます。その息子とのぎこちない関係も何度かエピソードになってます。他に幼い頃に亡くなった娘もいたようです。後には存在を知らなかった娘イヴェットも出てきたり。恋愛系はほとんどなくて、あってもマッコールが白髪のおじいちゃん(と思ってたけど、計算したら当時50代…まじかよ…)なので相手もほとんど同世代とか。。。若い娘さんが出てくる時は、大体が親代わりに親身になって助ける感じのエピソードです。
そんな彼の依頼の内容は、ストーカーに脅える女性やいじめに立ち向かおうとする学生から、家庭内DVや人種差別などの社会派な話もあったり、売春組織・テロリスト・麻薬ディーラーやシンジケートの戦いまで多岐に渡ってますが、冷戦時代・旧ソ連崩壊直前の作品なだけにKGB絡みの話も多いような。そうかと思えば、宇宙人(!)と女の子の可愛い依頼人もいたり。
メインの拳銃で足りない時は、自宅の武器庫からショットガンだの物騒な武器を持ち出します。それでも足りない時は武器屋からいろいろと調達したりもします。たまにペンの先が武器になってるスパイ小物だとか、アタッシュケースの中に仕込んだビデオメッセージなんてベタな小道具も出てくるので、そういうマニアも楽しめます。急なピンチになった際は、缶詰やガムで即席爆弾作ったり、身近なもので敵を倒したりって、元CIA諜報員って設定が同じせいもあってか後の『バーン・ノーティス』みたいな要素もちょっとあったり(世界観とシリアス度は全然違います)。
通称『カンパニー(The Company)』所属の元同僚で蝶ネクタイ率高いコントロール(彼も金ピカロレックスやGMTマスターってお高い時計してるシーンがあったりおハイソです)や警察の仲間もいますし、情報屋や裏社会の人たちや昔の知り合い等の情報網もフル活用してます。息子ほどに年の離れた元ネイビーシールズのミッキーとのやり取りはちょっとコミカルだったりして。こちらはいつもジーンズにミリタリーコートのアメリカファッションですが。
マッコールが人助けをする目的は諜報員時代に汚い仕事をした罪悪感からのようですが、ノワールってほど暗くないし、ハードボイルドってほどニヒルじゃない。クライムアクションではあるものの平均年齢高めのせいかそんなアクション激しくはありませんが、悪党はあっさり撃ち殺します。ジャガーが車を提供していたので彼の愛車は黒のジャガーですが、息子と山の中のロッジへ行くのにも乗ってたし(土埃で汚れまくるって)、ガンガン撃たれても負けじと新しいものに乗り換えしてました。
日本がバブルだった時代の作品なせいか、たまに日本のエピソードも出てきます。マッコールが鶴とか結構複雑な折り紙を折って日本に行ったことがあると言ってたり。別の時にはしゃぶしゃぶの話をしていたり。紳士の口から「しゃぶしゃぶ」て聞くとシュールすぎる…。更には三島由紀夫のでかいポスター貼って刀持って抹茶飲んでて武士道極めてる(?)麻薬ディーラーが出てきてたり…。マッコールは日本刀構えたその悪党を分銅鎖で倒してました。笑。謎なところはあるものの、中国と混じってないところはアメドラにしてはちゃんとしてました。
※中国のエピソードもチャイナタウンで誘拐された子供を奪還する話とかまた別にあります。そっちもちゃんと中国式のお祈りしてたり(と言っても私の知識は横浜中華街の関帝廟…)してました。
このドラマはビジュアルは地味だったり、日本では深夜放映だったことでほとんど知られていませんが、枯れた感じの登場人物や灰色の画面からして都会の虚無感満載的なイメージで、アメリカだけでなくヨーロッパなどでも受けていたようです。エドワード・ウッドワードもこのドラマの主人公ロバート・マッコール役が評価されて、1987年に第44回ゴールデン・グローブ賞のテレビ部門で主演男優賞を取ってます。ただシーズン3の途中でエドワード・ウッドワードが心臓発作を起こしたこともあってか、シリーズはシーズン4で終わっています。
またオープニングテーマをドラマーのスチュワート・コープランドが作っていたり、ゲストでロバート・ミッチャムやクリスチャン・スレーターだのケビン・スペイシーだのアダム・ホロヴィッツだのといった意外な有名人や売れる前の俳優だとか、エドワード・ウッドワードの家族とか、いろいろな人が出ていたりという点でもマニア受けするドラマだったりします。詳しいところは英語版のwikipediaに載ってたはず。
都会を舞台に裏社会に精通する凄腕主人公が助けを求めてきた依頼者を救う――ってこのドラマはニューヨークで新聞広告ですが、新宿駅の伝言板にXYZだとそのまま昔の少年ジャンプの漫画の『シティハンター』になってしまうわけで(笑)、こちらのドラマは先に書いたように、おじさんたちばかりの枯れたドラマなのでエッチな話は全然ありませんが、コンセプトは似てます。あれを100倍硬派にしたのがこっち、みたいな。。。日本放映時のタイトルの『ザ・シークレット・ハンター』もその辺を意識してるのかも。本国放映時と漫画の連載はwikipediaによると同じ1985年からだそうなので(読み切りいれると漫画のが先らしい)、この時代はこの手の話が流行っていたのかもね。
私は、渋くてちょっとダークヒーロー的で、たまに熱いけどクールで強い紳士なロバート・マッコールと、このドラマの乾いた世界観がとても好きでした。どれくらい好きかっていうと、昔使ってたプライベートの名刺のデザインはマッコールの真似でした。片面が名前と電話番号のみって超シンプルなデザインってだけですが。タイプライター調のフォントも真似してたよ。
……で、脱線しつつ長々と書きましたが、このシリーズは後の2014年にデンゼル・ワシントン主演映画『The Equalizer/イコライザー』としてリメイクされるわけです。
そちらの主人公ロバート・マッコールは、ジーンズにエプロンしてホームセンターで働いて安物デジタル時計してました…。おい、どこにマッコールの要素があるんじゃ!と、見たとき思わずつっこんでしまいました。(一応映画のマッコールもジャガーに乗ってるシーンありました←名前と性別以外でたぶん唯一の共通点?)
無理やり他にも共通点を見つけると、今回の敵はロシアン・マフィアの皆さんでしたが、上に書いたように本家テレビシリーズもよくKGBと戦ってたり、マッコールがKGBに撃たれてさらわれるのがシリーズ最大の危機だったりしたけど(この時はリアルでも心臓発作起こして最大の危機でした…)、それのオマージュなのか?とか思ったりして。まあ冷戦が終わっても、アメリカの悪役・敵役扱いに怒って来ない、ネタにしやすい国なだけって大人の事情な気もするけど…。
というわけで、デンゼル・ワシントンは渋いし、アクションとしては面白いし、カッコいいんだけど…でも…グロ多めで冷徹に暴力ふるっちゃう系の正義の味方って人助け屋ってより殺し屋的な雰囲気だし。クライムドラマってよりもバイオレンスアクションだよね。舞台もボストンになってるし。世界観とキャラクターが全然違うじゃん。ミッキーもコントロールもいないし!
何度画面を見ても、 完 全 に 別 物。 私の愛したテレビ版の要素は何にも残ってなかった…。まあ、全く違う新しい物語としては見ればそれはそれでありだけど。でもだからなおのこと、なんでオリジナルで勝負しなかったんだろうと。映画版のファンの人だって「でもこれ昔の人気テレビドラマのリメイクだよ」って言われるの嬉しくないでしょ?
『The Equalizer』のコンセプトのままリメイクするとしても、ロバート・マッコールって別にコードネームじゃないから、ここまで違うならこれはマッコールじゃない新しいキャラクターにすべきだったと思います。名前を残すなら、デンゼル・ワシントンにブリティッシュアクセントのおハイソ紳士を演じてもらうべき。無茶言うなって。
映画版は人気だし、2018年に次回作も出るんだから、今更古いこと言ってんなって?エドワード・ウッドワードも亡くなってるししょうがないだろうって?
キャラクターは財産だと思います。
近年のアメリカはポリコレとか配慮するところが多すぎるって点はあるんでしょう。加えてエンターテインメント至上主義なので、今売れるなら継続性なんてどうでもいい。ブランドとか歴史より、分かりやすい『金だよ、視聴率だよ』――って傾向が他の国のエンタメ業界より大きい。
でもイギリスだったら、ジェームズ・ボンドやポワロはどの俳優が演じても、喋り方や大まかな性格や生活様式などのキャラクター設定は同じです。仮に性別や人種が変わってもベーシックな部分は死守するはず。ジーンズ履いてテンガロンハットかぶってアメリカンアクセントで喋ってるジェームズ・ボンド見たら世界が発狂するでしょう。←見たい気もする…。
日本の漫画やアニメも、絵柄や声優が変わっても、キャラクターの同一性は基本的には大事にされてます。ドラマの金田一シリーズなんかも役者は違っててもベーシックな部分は変えてない。キャラクターが立ってないと、パラレルとかスピンオフみたいなのもできないし。
一方で時代に配慮して昔話が現代風になってオチとか性別とか改変されてたりもします。アメリカのエンターテインメントも、そんな流れに乗って各種の配慮とその場のノリで人気のキャラクターやシリーズをガンガンと改変していきますが、これって行きすぎると作っては壊しで、後に何も残らないのではと懸念したりします。
けどまあその辺も、過去の栄光やファンを大事にしなくてもいつでも新しい売れるものを作れるって自信から来ているのかもしれないし、アメリカだって人気ヒーローのシリーズは続いてたりするし、基本は『売れれば正義』で、枠にとらわれてないという言い方もできるのかも?
でもやっぱり私のマッコールはジーンズ履いちゃ駄目。ガウン着てブランデーを飲んじゃうようなベタな格好が様になってるおハイソなイギリス紳士なの!(←ほんとにそんなシーンがあったわけではなくてイメージ。赤いガウンでコーヒーは飲んでた)それだけは譲れない!とぶつぶつ言いつつ、今更ながらにDVDでエドワード・ウッドワードを偲ぶのでした。