The Angels’ Share 天使の分け前 [2012年英仏白伊映画] ネタバレとスコットランド訛りと香水の話

さて今回は2012年のイギリス・フランス・ベルギー・イタリア合作映画。例のごとくイギリス(というかスコットランド)以外の要素が全然分かりませんけど。ケン・ローチ監督作としては『The Wind That Shakes The Barley(麦の穂をゆらす風)』『Jimmy’s hall(ジミー、野を駆ける伝説)』に続いて書くのは3作目です。つっても今回のは私の好みじゃなくて知り合いのアイルランド人が好きな映画ってことで一緒に見ました。

なので私が好きなバンバン撃ち合いしたりやアクションは全然ありません。主人公が社会奉仕を命じられた元ワルってことで殴られてるちょいグロシーンはあるけども。DVDのパッケージによると『ファニー』で『ハートウォーミング』だそうで、IMDbの分類だと『コメディ』『クライム』『ドラマ』らしい。ガハハって笑うような系のコメディではないですが、まあ大雑把にはクライム=犯罪ドラマって感じ。

舞台はスコットランドのグラスゴー他で、現代ドラマです。先の2作はどちらも100年くらい前のアイルランドが舞台で独立戦争・内戦とその後の話だったので、だいぶ毛色が違います。知り合いは私と違ってほのぼの話やコメディや楽しいドラマが好きなそうなので、私が詳しくないジャンルも教えてくれます。

 

Angels’ Share

タイトルにもなってる『Angels’ Share』は邦訳では『天使の分け前』ってなってますが、『天使の取り分』とかも言いますね。そのままカタカナの『エンジェルズ・シェア』も使われたり。

『The Angels’ Share』

映画中にも説明が出てくるけど、ワインやウイスキー、ブランデーとかの蒸留酒を樽で熟成する時に蒸発で自然に減る分のことだって。樽一杯に作ってもちょっと減っちゃうからその分を天使が飲んだって表現するんだって。日本のお酒屋さんのサイトにも大体説明載ってますので有名な表現ではある。

20歳以上の人はお酒のサイトも見ちゃダメらしいので、URLをリンクせず貼るだけにしとくけど。

アサヒビール/天使の分け前とは何ですか?
https://www.asahibeer.co.jp/customer/post-116.html

ニッカウヰスキー/「天使の分け前」という言葉を知っとるかな?
https://www.nikka.com/twhisky/column/untiku83.html

サントリー/ウイスキーを芳醇にする「天使の分け前」とは。
https://www.suntory.co.jp/whisky/yamazaki/news/084.html

逆に樽の木に染み込んじゃって減った分は『Devil’s cut(悪魔の取り分)』って呼ぶらしい。両方合わせてなかなか雅な表現です。

ちなみにボトルのミネラルウォーター(お水)も通常賞味期限が2年になってるのは、それくらい経つと上の方が蒸発して飲みかけみたいに見えるからクレーム対策(腐るとかじゃないのでもうちょっと飲めるには飲めるらしい)とか聞いたことがありますが、これを天使の分け前とは言いませんので、そう呼ぶのはあくまでもお酒かな。

 

ここで香水の話

さてこのお酒が自然に減る分の『Angels’ Share(エンジェルズ・シェア)』をタイトルにしたものはお店や創作作品とかでもいろいろあるようですが、最近話題になってる香水にもあります。

『KILIAN PARIS(キリアン)』ってブランドの香水でも、『Angels’ Share(エンジェルズ シェア)』って同由来のタイトルのがあります。そのままお酒の香りを表現してるらしい――けど、シナモン入ってるから私は持ってません。←紹介しといてコラ。アメリカ人もシナモン大好きなので、シナモン嫌いなの?ってよく言われる…。肩身が狭い。

代わりに『Moonlight in Heaven(ムーンライト イン ヘブン)』と『Rolling in Love(ローリング イン ラブ)』って香水を持ってます。アメリカで買ったけど、日本人に割と人気の香りらしい。やっぱり私の感覚は日本人だった。しかしこれトラベルサイズなのに重くて全然トラベル用じゃない。

さてこの香水『KILIAN PARIS(キリアン)』は2007年にフランスで創業、日本には2018年に上陸したそうで。リアーナがつけてるとかで有名になったみたいですが、日本だと『香水界のロールス・ロイス』なんてダサいキャッチコピーつけられてて、まあお高いんですが、50mlで日本では30,800円がアメリカだと250ドル×約140円で35,000円くらい?円安なので日本で買った方が今現在はまだ安いぞ。日本で値上げする前に買おう!

※とか言ってたら来月から値上げらしいよ。でもまだ日本で買う方が――。←香水屋さんの回し者ではありません。

 
どうでもいいところとしては英語だと『Cillian』と『Kilian』でスペルが違うからいいのですが、日本語だとカタカナが同じなせいかキリアン・マーフィー(Cillian Murphy)のファンの人が「キリアン 新作」とかでネット検索すると最近は香水ばかり出てくるとか言ってました。笑。

香水ファンの人もきっと新作情報とかを検索するたびに「映画の情報はイラネ」って思ってると思いますので、まあお互いに仲良くしてほしいと思います。

※ちなみに今回の映画にはキリアン・マーフィーは出てきません。出てくるのは『The Wind That Shakes The Barley』だよ。

The Wind That Shakes The Barley 麦の穂をゆらす風 ネタバレ感想とアイルランドの歴史の話

さてなんでこの香水の話をしてるかって言うと、この香水屋さんのフルネームは『Kilian Hennessy(キリアン ヘネシー)』さんだそうで。ヘネシーって苗字でわかるかと思いますが、有名コニャックブランドの創業一族の方でもあるんだそうで。なのでこの映画に出てくるような蒸留所でお酒に囲まれて育ったので(ウイスキーじゃなくてブランデーだけど)、『Angels’ Share(エンジェルズ シェア)』とかお酒にちなんだ香水シリーズも出してるってことらしい。

脱線しとくとこの映画にも出てくるウイスキーは大麦とかで作った蒸留酒で、ブランデーは果実を蒸留したもの、その中でもフランスのコニャック地方で作られるのがコニャックになるらしい。アルコールの度数やら原料なんかも細かく規定されてるみたいだけど、その辺は興味のある人はぐぐってみてください。←投げやり。

脱線ついでにもうひとつ、日本であまり知られてないアメリカ人の受け売りを書いとくと、アメリカではコニャック、特にヘネシーはアフリカ系アメリカ人(黒人)コミュニティとの結びつきが深いんだそう。ヘネシーはNAACP(全米有色人種地位向上協会)の最初の企業スポンサーだったり、アフリカ系の人たちの雑誌へ初めて広告出した企業だったり…。彼らの文化や活動への寄付や援助もしてて、そういう背景から、近年のヒップホップカルチャーでもコニャックとの関わりが深くて、アメリカでの売り上げのかなりの部分に彼らの貢献がある持ちつ持たれつの関係だそうな。

 
ちなみに日本語で互いに検索混線してる『キリアン』って下のお名前の方は、知り合いのアイルランド人によると、そもそもヘネシーウイスキーの創業者はアイルランド系フランス人だったそうだけど、この香水屋さんのおじいちゃんでコニャック王とか呼ばれた何代目かの人が『Kilian Hennessy(キリアン ヘネシー)』って名前だったそうで。同姓同名なので、この香水屋さんはおじいちゃんの名前をもらったんではないかって言ってました。

そしてこのキリアンて名前自体は『Saint Kilian(聖キリアン)』に由来してて、Cの『Cillian』やら、Kの『Kilian』やら、Lが多くついてる『Killian』やら、表記の揺れで違うスペルの人たちがいるそうですけども、いずれもアイルランド(系)に多い名前だそうです。フツーによくある名前でこの名前の庶民の友達もいるって言ってたから、別に有名人だけが被ってるわけじゃないけどね。

同じルーツなのね、と思うと新作情報探してて違う方が出てきても許せるよね。

脱線おわり。

 

映画の話に戻る。と思いきや言葉の壁の話。

さて映画の話に戻りますが、最初にも書いたように、私の知り合いのアイルランド人のお気に入りの映画です。面白いからって言われて見始めたわけですが、残念ながら日本語環境じゃないので英語版です。

が、見始めて数分の登場人物が喋り始めた辺りで、なんだこれはってなる私。

「何語喋ってんだよー!」全然分からなくて思わず絶叫。

「英語だけど…、字幕つけるね」
と、笑われつつ英語字幕つけてもらって、ようやく英語を喋ってるって理解した。そうこの映画の舞台はスコットランドのグラスゴーで、みんなスコットランドアクセントなのだが。

訛りすぎてて聞き取れない!

(一般的な)アイルランド訛りのがまだ分かるから。やばいぞスコットランド。←スコットランドの人ごめんなさい。こんなとこ見てないって。

しばらく見てても慣れたようなやっぱ無理ってような。字幕ひたすら読んじゃう。
マジで何が分からないポイントなのかって考えちゃった。で分析すると――。

  • 単語の発音が違う
  • イントネーションとリズムが違う

 
発音はまあ大雑把に「アメリカ英語」「イギリス英語」でアメリカ人はビタミンをヴァイタミンていうとか、トマトがトメイトだとかあって、イギリスの方が日本語発音に近いとか言われてますが…近いはずですが……。それともなんか違う!イギリス(イングランド)とスコットランドの間には歴史とも別の深くて長い溝がある!

そして二つ目がトドメ。まあイントネーションって素人説明だけどさ、アクセントとかピッチとかって言うよりわかりやすいのではと。日本語でも抑揚やイントネーションを全然別にしてみると一瞬何言ってるか分からなくなるかと思いますが、それの英語版だと思ってちょうだい。

この二つが組み合わさって、「何語喋ってんだよ?あ、英語?」ってマジでなる。

 
一緒に見てたアイルランド人はスコットランドにも行ったことはあるそうで、まあ地理的にも割とご近所(?)なせいか、フツーに見て理解できてるみたい。しかしアメリカ人はこの場にいなかったけども、後でちょっと見て「何言ってるか分からない」って言ってたから!

アメリカ人にも分からないってよ!

ドラマや映画でも、他国の人が見ることを前提にして分かりやすく喋ってるものと、リアル追及で分かりづらいものがありますが、今回のは後者のリアル追及型ではないかと。

だって上で名前の話したキリアン・マーフィーが主演のイギリスドラマ『Peaky Blinders: Series5(ピーキー・ブラインダーズ: シーズン5)』にもグラスゴーのギャングが出てきてたけど、役者がアイルランド人でスコットランドアクセントが下手とかぼろくそレビューで言われてたけど(だからこそか?)私にも聞き取れたもん!こっちはリアルなのか分からんまじで。

とはいえ本気で訛ってる現地のおじいちゃんおばあちゃんの発音だとアイルランド人でも「は?」ってなるとか言ってたので、これもだいぶ映画向けにはなってるみたいですが。

これでまだマシなのかよ。マジでやばいぞスコットランド!

※スコットランドの中でも今回の舞台のグラスゴーは特にアクセントがきついらしいです。。。

 

ネタバレなあらすじとか。文化の違いを感じたり。

さてここからはネタバレしてます。全然聞き取れない英語に苦戦しつつも見ていたわけですが、ストーリーは割とシンプルで、複線もわかりやすい。

傷害事件起こして社会奉仕を命じられたロビーは恋人が息子ルークを産んだばかり。奉仕の場で他の仲間たちと出会い、更に彼らの監視者のハリーがウイスキー愛好家だったことから、蒸留所へ社会見学に連れてってくれたりする。その場でタイトルにもなった『Angels’ Share』の説明がされてたり。ロビーはウイスキーのテイスティングに興味を持ち始めたり。

そんな折にエジンバラの試飲会ではロビーはテイスティングの才能を発揮して見るからに金持ちっぽいコレクターの人に認められて名刺もらってる。仲間の一人は貴重なモルトミルの保管場所の資料を盗んできてたり。

妻子のためにやり直さねばと思ってるロビーは犯罪には興味ないけども、義父は二人の関係を認めてはないみたいで娘を置いてロンドンへ働きに逝けとかプレッシャーかけてきてるし、敵対相手に新居を嗅ぎまわられたり不穏な環境にあることもあって、金を稼いでやり直さないとと思う。

そして貴重なウイスキーを仲間と盗んでコレクターに売るって話。仲間の一人が手癖悪くて工場見学でもミニボトル盗むし試飲会では資料も盗むしって展開とか、見るからに金持ちコレクターに見染められるとか、大体のキャラ設定で話の流れが読める。彼らの盗んだ分が『天使の分け前』になるのねとかも。

『The Angels’ Share』

そういう意味では全然意外性とかはない映画ですが、文化の差を感じたのは、妻子のためにやり直そう→窃盗かよ!というとこ。ラストは売ったお金で新天地へっていい話みたいになってますが、おいこら待てと。

しかもそれをアイルランド人が「いい映画」と呼んで気に入ってるとこ。実際この映画の評価もヨーロッパではいいらしいですよ。しかし天使の取り分とか言うとかわいいけども、多分500mlくらいの4本だから2Lは行ってたじゃんよ!たくさんあった樽からしたら2Lくらい誤差かもしれないが、ガッツリ盗ってるじゃんかー!どこがハートウォーミングじゃ!

私が聞き取りに苦慮して良い台詞とか聞き逃したのか?とかモヤモヤしつつAmazonの日本語版のレビュー見たら、日本語版で見た他の皆さんもフツーに「なんでそうなる!」と突っ込んでらしたので、言葉の壁の問題じゃなかった。

途中悪いことしても終わり良ければ総て良しのヨーロッパ的価値観と、悪いことした金で妻子養う罪悪感はないんか?ああ?みたいな日本的価値観の差を感じましたよ。

まあその辺は『赦し』で全てがチャラになる宗教観にもつながるのかね。せっかくやり直してるんだから野暮なこと言うなって前向き(って言っていいのか)さと、やり直すなら罪を償ってからにしろって後ろ向きな文化の差というか。

 
というわけで、観たことのない人にはぜひその差を感じるために見てほしい。多分みんなモヤモヤすると思う。そしてこの全然分からないスコットランドアクセントを堪能するためにぜひ吹き替えじゃなくて、日本語でいいから字幕版で見てほしい。英語の勉強してる人とかが見たら聞き取れなくて自信なくすと思うよ。←ひどい。

とか言いたい放題書いてますけども、映画の面白さ的には同じ監督の『Jimmy’s hall』よりは上でありました。あっちはあっちのページで書いたけど、戦後の平和ボケの象徴としてあの退屈さを楽しむ映画と勝手に解釈してますが。それよりこっちのが娯楽映画としては面白い。

ケン・ローチ監督作としては私の好みはやっぱり『The Wind That Shakes The Barley』が一番だけどね。鬱映画です。