Peaky Blinders(ピーキー・ブラインダーズ) [2013- BBC] 一部ネタバレ・偏りすぎなドラマの背景

今回は第一次大戦後の1920年頃にイギリスに実在したギャンググループを元に作られたBBCのクライムドラマです。現在シーズン5まで出ていますが、シーズン6の撮影が新型コロナウイルスで延期になってしまっている現状みたい。公式アナウンスだとシーズン7までは決まってるらしい。

とりあえずこのドラマはミニシリーズなので1シーズン6話ずつしかないため全30話でサクサク見られます。私も新シーズン出るごとに見てたけど、数年越しだと人名とか忘れちゃったりするので、止まってる間に英語版で一気に見直してみました。元々Netflixでも同時配信されてるようで、日本でもそれで見られるみたいです。そっちはちゃんと日本語化されてるはず。みんなもこの機会に一気見しよう!

 
しかしイギリスドラマって去年たくさん見たけども、実際にも銃はあまり使わないそうで日本の刑事ドラマ以上に銃使わないし、刑事ものは体当たりで犯人捕まえてるし、なんか全般的にアクションよりもスパイものが得意で、頭脳戦で出し抜いた!ってやつのが好きなのかなと思ったり、地味ってイメージだったんですが。

このドラマが人気って聞いて思ったのは、イギリスもドンパチアクションやりたかったんじゃん!ということ。いや別に誰もやりたくないとは言ってないけども。

まあスタイリッシュな画面になってる分、底辺な人がたくさん出てきていてもアメリカドラマよりは節操があってお上品な感じがします。アメドラの底辺描写ってマジで画面が汚いからさ。リアルすぎて臭そうだったり。笑。やっぱりそこはBBCだからfu*k連呼してても違うのかなと思ったり。まあぐろいシーンもあるので、その辺はひーって言いつつ見ましたが。

アメリカの友達によるとこのドラマ、アメリカでも人気だそうで、「イギリスヤクザドラマ」とか私にわかりやすく言ってくれたわけですが、彼女がなんでヤクザドラマを知ってるのか(多分、北野映画を見たっぽい)考えつつも、私の頭の中では、その変なたとえのせいで『Peaky Blinders(ピーキー・ブラインダーズ~仁義なき戦い)』みたいに脳内で勝手に副題がつくようになってしまった…。

でもヤクザドラマとの最大の違いは主人公が一家のリーダーなんですが、穴掘りしてたり自ら動くことかね。組長もマフィアのボスも自ら労働しないからね。

※私が買ったカード付きのSeries1-5までのセットは廃盤になってしまったらしい…。

    

 
ざっくりドラマの概要を書いてみると、時代は1920年代~のバーミンガムといくつかのイギリスの都市。シェルビー(Shelby)一家が率いるギャングの『Peaky Blinders(ピーキー・ブラインダーズ)』は、裏稼業で儲けつつ政府とも取引したりで表稼業にも手を広げてアメリカでもビジネスを始めて行く。

そんな中でリーダーであり、第一次大戦の退役軍人でもある主人公トーマス(Thomas Shelby)も、Shelby Company LimitedのCEOになったり、OBE(大英帝国勲章)もらったり、MP(政治家)にもなったりと成り上がっていく話なので、壮大なサクセスストーリーとも言えなくない。

色恋沙汰でもトーマスは身内以外の女性登場人物みんなとデキてる感じのモテモテ男ぶりなので、仕事と恋愛両方を手に入れる主人公ものって言い方すると、ビジネス漫画とか出世ドラマとかあの辺のジャンル的な要素もあり。

そしてシーズンごとに『○○編』みたいに敵との戦いが終わって次へ行く辺りは、少年ジャンプ的な展開です。アメドラもそんな感じで続いてくけど。そういう意味では人気シリーズのテンプレにうまく乗せてるドラマって感じ。だから強さがインフレ化…も、してるようなしてないよーな感じですが、やろうと思えば延々続けられそうね。

もうひとつ言うとこのドラマ、お洒落な雰囲気と当時のファッションと共に音楽にも凝っていて、BGMとか劇中歌とか色々出てきます。戦闘モード?とかクスリキメるといきなりBGMがハードロックになってたり笑わせるところもあったり。アメドラみたいな『いきなりオペラ回』ってのはないけども、いきなり歌い出すヤツもいたり。笑。

※ただし私はオリジナルBBCの英語DVDで見てますが、Netflixだと版権の問題でほとんどのサウンドトラックが変更されてるらしい。日本語版で見てる人とは違う曲を聴いてるかもしれない…。劇中歌はそのままだろうけども。

BBC『Peaky Blinders』
Peaky Blinders-singers

上の男性二人はどちらも『Resistance(Rebellion リベリオン: Series 2)』に出てるので、そっちも見てね!ジミーの人はそっちもでもジミーでシリーズ通して主役です。アイルランドの独立戦争ドラマだからイギリスは敵でこのドラマの反対のIRA役やってますが…。他にもリジーの人とシーズン2の条約賛成派の女性が姉妹設定でレギュラーです。

 
さて最初にイギリスに実在したギャンググループをもとに作られているドラマって書きましたが、どれくらい史実に沿っているかというと、あの変な髪形と、そういうギャングがいたんだよってくらいの史実度みたいです(つまりほとんどフィクション…)。

むしろこのドラマ、時代考証がいろんな面でテキトーで、箱マッチはまだなかった、みたいな「この時代に○○はなかった」系が多い――いろんな方向から突っ込まれまくってるので、おかしな点に突っ込みつつお洒落な雰囲気を楽しむ雰囲気ドラマって感じなのかもしれない。カッコよければ細かいところはどうでもいいんだよ、みたいな。

キャラクターも個性的で、感情移入できるキャラも見ててイライラするキャラもいたり。メインもあっさり消えるので、ドキドキしながら見る要素もあり。どんどん悪に染まってく若手や、ちびっ子の成長を見たりの微笑ましい?部分もあったり。

クライムドラマだけどもそんな風にいろいろ見どころはあって面白いドラマです。

ということで、シーズンごとの脱線あらすじは次にするとして、ここからはネタバレありのドラマの背景。偏ってるのは私の好みが偏ってるからだよ。

実在の『Peaky Blinders』

1890年頃~バーミンガムに実在したギャング集団。テーラードジャケットとか帽子などの特徴あるファッションはドラマで再現されてる通り。フラット帽にカミソリの刃を縫い付けてケンカの時にそれで攻撃して相手に目潰し攻撃を仕掛けていたのが『Peaky Blinders(直訳,鋭いもので目眩ましする)』の由来とか言われてますが、それも諸説はあるらしい。設立当初はまだカミソリの替刃なんてなかったとか…。

メンバーに第一次大戦後の退役軍人が多かった点もドラマの通りで、彼らは強盗やケンカから、組織だっての違法賭博(ノミ屋)などをするようになり勢力拡大していきます。

ただしドラマではシーズン1の最後に『バーミンガム・ボーイズ(Birmingham Boys)』って敵対ギャングのボスのビリー・キンバー(Billy Kimber)を倒していましたが、実際はドラマの時代の1920年頃にピーキー・ブラインダーズがバーミンガム・ボーイズに倒されて吸収されたそうで、ドラマのその後の成り上がりぶりはフィクションです。いきなり話が終わっちゃった。

というわけでドラマに出てくるShelby一家は完全にフィクションですが、ピーキー・ブラインダーズの主要メンバーに『Thomas Gilbert』って名前の人はいたようです。ただしおっさん。

      

実在のピーキー・ブラインダーズやビリー・キンバーなどのイギリスギャングの本もある。

実在の人物

上に書いたようにバーミンガム・ボーイズのビリー・キンバーは実在の人物でピーキー・ブラインダーズを倒した後の1930年代くらいまで活動していたらしい。

シーズン2に出てくる競馬王のサビーニ(Charles Sabini)も実在した人物で、シーズン2の最後のエピソードはこの両者間で実際に起きてたそうで。微妙にいろいろ変えてるのね。二人ともそこそこ長生きしてたようだけど。

スコットランド・グラスゴーのビリー・ボーイズ(Billy Boys)は、そう呼ばれてたビリー(Billy Fullerton)って名前のギャングがいたそうで、更に彼の歌があるそうで、それが『ビリー・ボーイズ』ってタイトルで、彼らが登場した時に歌ってた「Hello, Hello We are the Billy Boys~♪」ってやつ。これテキトーに歌ってると思ってた…。笑。

多分、他の登場ギャングもモデルになった実在の人たちがいそう。

 
その他の実在人物では歴史の教科書にも出てくるイギリス元首相のウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)とか、シーズン5のファシストのオズワルド・モズレー(Oswald Mosley)が有名人。喜劇王のチャップリン(Charlie Chaplin)もちょっと出てる。

モズレーは史実だと1932年にイギリスファシスト連合を作って、ナチスみたいな旗とか掲げて黒服でファシズムとか提言してたヤバいやつで、どんどんエスカレートして支持者もドン引きして選挙で落選しちゃったり、第二次大戦が始まり、彼も捕まって投獄されたりしてます。

ドラマでは群衆が「Perish Judah(ユ○ヤ死ね)」連呼してる中、ナチス式敬礼して登場し、ファシズム全開のスピーチして党の旗揚げするところでした。

 
チャーチルは最近、反人種差別デモで銅像が倒されないよう囲われてニュースになっていましたが、そもそもただの元首相ってだけじゃなく、イギリスでは最も偉大な指導者として評価されてる人です。二度の大戦と戦後と激動の時代を生きてきた人なので功績もたくさんある。

でもお隣りアイルランドでは、このドラマの当時、イギリスからの独立を目指してた戦争の最中に、一般市民の民家まで焼き討ちしたり横暴の限りを尽くした『ブラック・アンド・タンズ(Black and Tans)』を送り込んだ悪党として嫌われてます。

第一次大戦の復員兵からなるブラック・アンド・タンズの凶悪さは、アイルランドの独立戦争を描いたドラマでは必ず出てくる。このドラマの主人公役でもあるキリアン・マーフィー(Cillian Murphy)が主人公のIRA映画『The Wind That Shakes The Barley(麦の穂をゆらす風)』にも勿論出てくる。BBCのニュースドキュメンタリーでは、チャーチルは休戦後は条約を結んだり良いこともしたとかフォローしてたけども、それもそれでアイルランド内戦のきっかけだし。

また第二次大戦下の1943年にはイギリスの植民地だったインドのベンガル飢饉を彼の政治失策で引き起こしたとも言われてます。300万人もの人が亡くなった原因を作ってる。

というわけでイギリス外から見るとローカルギャングよりファシストよりもひでえ男です。さらに今の価値観だと人種差別主義者になってしまうような言動もしてたそうな。だから銅像倒されそうになってたわけだけど。

ちなみにベンガル飢饉でいち早くインドへの支援をしたのは1845-1849年のジャガイモ飢饉で同じ目に遭ったアイルランド。歴史は見る側によって正反対だね。

The Wind That Shakes The Barley 麦の穂をゆらす風 ネタバレ感想とアイルランドの歴史の話

その他の細かいところとしては、シリーズ4から出てくる社会主義者の女性ジェシー・エデン(Jessie Eden)も実在のモデルがいます。女性労働者の賃金や権利のために戦ってたところはドラマの通り。レントストライキ(Rent Strike, 借主側の権利を訴えて家賃払わない社会主義運動の一種。今回の新型コロナウイルス関連ニュースでも話題になったり)を呼びかけたり、後にはロシアへ渡ったり、ベトナム戦争に反対したりといろいろ活動してたらしい。

変な髪形

正直最初にこのドラマの紹介見た時は「なんだこの変な髪形」ってのが真っ先の感想だったんですが。←素直な感想ごめん。このドラマシーズン重ねるごとに本国イギリスでは人気出て、この髪型とかファッションを真似する若い子もいるそうな…。

ただこれ英語で『Undercut』日本語で『ツーブロック』なので、ここまでがっつり行ってない程度なら、ドラマ前から普通に若い男性に流行っている髪型ではあります。

元々はドラマの世代の1910頃~のイギリス労働階級とストリートギャングに流行っていた髪型らしく(というか当時の技術力的にこんな感じになったらしい)、実在のピーキー・ブラインダーズもこんな髪型していた写真が残っているようです。

その後1980年のテクノブームとかで世界的にお洒落ヘアとして認知されて、今では程々にアレンジされて日本でも一般的になっています。

がっつりタイプのやつは、横を短く刈ることで邪魔にならず(長いと結っても掴まれる欠点がある)、衛生も保てるとかで兵士もこんな髪型をしていたりするので、それがトラウマになって戦争関連を理由にこの髪型をタブーにしている人たちもいるみたい。

ジプシー一家

このドラマの主役一家はジプシー(gypsy。今は差別語らしいけどドラマ内でもそう表現されてるので便宜上そう書く)ですが、これは北インド辺りから来たといわれるロマニ系(Romani)の人たちを指していて、今の差別語でない言い方は『ロマ(Roma)』もしくは『ロマニ(Romani)』です。独自のコミュニティと文化を持ちキャラバンで移動していたため、行く先々の地域のコミュニティと対立したりで差別されていた歴史があります。

このドラマでもことあるごとに、いろんな人に、トーマスたちは「tinker」って差別語で呼ばれてますが、これもかつて流浪しながら鋳掛け屋やってたかららしい。※tinker自体が差別語じゃなくて彼らをそう呼ぶのが差別語。

ただ彼ら一家は純粋なジプシー一家ではなくて、彼らの言葉でジプシーとそれ以外の人との混血を示す「didicoy」って呼ばれてたり(Lee一家に言われてキレてた)、母がジプシーだったのは語られてて、父は白人だったので、混血設定みたいです。実際は定住して地元に溶け込んで暮らしていた人も多いそうで、彼らもそんな風に描かれてる。一方でジョンの奥さんになるLee一家とかはいまだに放浪生活していたり。

 
ちなみにイギリスや周辺国には、彼らと同じようにキャラバンで放浪生活を続けるアイリッシュ・トラべラー(Irish Travellers)という人たちもいます。広義では彼らもジプシーと呼ばれるけども、ルーツは全然違う。その名の通りアイルランド系の流浪の民。

そしてこのドラマ、上でも書いたように時代考証とかいい加減で英語圏では突っ込まれまくってるんだけど、主人公のキリアン・マーフィーがアイルランド系俳優だったり(ドラマで使ってるのはバーミンガム訛りらしいが)、アイルランド系の人がたくさん出てたり、劇中でダブリンに知り合いがいるとか言ってたり、カトリックだったり、Lee一家は何故かアイルランド訛りだとかで、一部で彼らはトラべラーではないかと言っている人もいたりする。※アイルランドの知り合いによるとLeeって苗字はトラベラーの一般的な苗字なんだとか。

けどドラマの設定上は『ロマ(Roma)』で間違いないらしい。というのもシーズン1でトーマスたちは機械翻訳の謎『ルーマニア語(Romanian)』を話していたそうで、笑、英語で書くと紛らわしいんだけど、ルーマニア人(Romanian)が、「ロマの人々(Romani)が喋るのはルーマニア語じゃなくて、『ロマニ語(Romany)』です!風評被害だ!」と突っ込んでるレビューがいくつもあるから。笑。その後のシーズンではロマニ語に直ってるらしい。

 
……こういうの日本人の私からするとあまりこだわらないポイント(フィクションだし、ロマでもトラベラーでも対して差がないような)なんですが、英語圏だとキャラのルーツとアクセントと見た目は、ものすごく関心の高い点のようで、あれこれ考察されてます。

トーマスの娘の目の色は茶色だけど、青い目の夫婦から茶色は生まれないから、浮気の子ではとか見た時は笑ってしまった。子役の配役も大変だね。日本だと血液型つっこむみたいなもん?

アイルランドの歴史とIRAとUVF

このドラマはイギリスドラマですが、アイルランド統治下~内戦、その後の時代に被っているせいかIRAとUVFやその他のアイルランドのメンバーもたびたび出てきます。

歴史については『The Wind That Shakes The Barley』で散々書いたので、時系列だけ箇条書きにすると、

  • 1916年イースター蜂起。
  • 1919-1921年アイルランド独立戦争。この時戦ったのがIRA。
  • 1921年英愛条約。この内容によって、IRAは条約賛成派(自由国軍)と反条約派に分かれ、内戦になる。
  • 1922-23年アイルランド内戦。条約賛成派(自由国軍)にはイギリスがついてるので反条約派は不利で当然負けた。
  • 1937年エール、1949年共和国化。
  • 1960-70年代北アイルランド紛争。テロ組織としてのIRAとUVFの活動激化。
  • 1998年ベルファスト合意で休戦。したはず…。

 
IRAは近年はテロリストとして有名ですが(イギリスから見たら発足当初から勝手に独立ゲリラ戦を仕掛けてるテロリストですが)、1919-1969年までとその後の北アイルランド紛争の組織は分けて考えられてます。細かいことを言うとグレーだけど。

このドラマの時代でもある1920年頃の組織は、独立を目指して戦っていた義勇軍が前身で、アイルランド議会が共和国を宣言したことで、自分たちは一国の軍だぞと『Irish Republican Army=アイルランド共和(国)軍=IRA』と名乗るようになった共和国軍です。主にカトリックのアイルランド国民。ナショナリスト側。

彼らは独立戦争はIRAとして戦いますが、停戦でイギリス側が提示した英愛条約の内容――認めるのは『共和国』ではなく自治領の『自由国』、ゆえにイギリス国王へ忠誠を誓うこと、北アイルランドはイギリス領土のまま――などを巡って『条約賛成派(pro-Treaty)』と『反条約派(anti-Treaty)』に分裂します。そして起きたのがアイルランド内戦で、それにまつわるエピソードはシーズン2にも出てきます。

近年ではこの時代のIRAを『old IRA』とか呼んで区別することもあります。

BBC『Peaky Blinders S01E03』
ドラマの設定はIRAできたばかりの1919年なんだけど、曲は1970年代に作られてるので、ドラマと歌詞の時代が合ってない…。
Peaky Blinders S01E03

 
彼らに対して、1912年に成立したUVF(Ulster Volunteer Force)はアルスター義勇兵とか訳されますが、こちらは北アイルランドのアルスター地方の市民兵。

このエリアはプロテスタントが多く、スコットランドやイギリス側の入植者、アングロ・アイリッシュ住人も多く、「アイルランドが独立してカトリックのやつらに支配されるくらいなら、今のままイギリス側とつながりを持っていた方がいい」と独立に反対し、IRAと対立しました。こっちはユニオニストと呼ばれてる。

アイルランドの独立と内戦を描いた映画でも、北アイルランドとUVFはスルーされがちで日陰の存在ですが、彼らはイギリス側の支援を受けて統一阻止で動いています。更に1920年にはアルスター特別警察(USC)という自治警察になったりしてます。イギリス軍と同じ制服着てたり武器も大量に確保してる。というか密輸をお目こぼししてもらってたり。

 
この両者――カトリック・IRA・ナショナリスト側と、プロテスタント・UVF・ユニオニスト側の対立は、アイルランドの南北を分断させて、近代の北アイルランド紛争につながりますが、イギリス統治下の第一次戦争当時は「イギリス兵士」として共に戦場で協力していたり、過去には双方の仲直りを呼びかける人もいなかったわけではないそうです。が、なかなかうまくは行かなかったと。

それでも長い歴史の後に和平に辿り着いたのが、1998年4月10日の『ベルファスト合意(The Good Friday Agreement)』です。それに貢献した政治家のジョン・ヒューム(John Hume)と、デビッド・トリンブル(David Trimble)はノーベル平和賞受賞してます。※補足。ジョン・ヒュームさんは2020年8月3日に亡くなって日本でもニュースになってました。

※近年の北アイルランド紛争まで含めた(テロ組織の方含めた)IRAの歴史は、シーズン5のとこでも 脱線して書いてます…。

 
更にこのドラマではキャンベル警部(Inspector Campbell)がベルファストでIRAを取り締まってた警察ということで、おそらく元RIC(Royal Irish Constabulary, 王立アイルランド警察隊)設定みたいですが、RICはイギリス統治下のアイルランド警察で、基本的にはイギリス側の指示に従って不穏分子を捕まえてた。独立戦争時代はIRAと戦ってました。彼らだけでは抑えきれなくなってイギリス側は軍の補助部隊とか上で書いたブラック・アンド・タンズとか投入してた。

ただ基本はRICはカトリックメンバーだったので、彼らが寝返ってIRA側に有利なことをしないように、北アイルランド内ではUVFが監視してたり、後に独自のアルスター特別警察(USC)を結成します。

なのでこのドラマの彼(とIRAに殺されたって言ってたグレースの父)は、RICの少数派のプロテスタントでUVFと通じてる――設定とすると、ありえなくはないけどちょっと苦しい。なおかつIRAから分かれた条約賛成派とも組んでたり。謎。一応、偉い人の命を受けてるみたいに描かれてたけど。

なんて長々書いてみて、この辺に興味があるのは、キャラクターのルーツとか目の色髪の色気にする人以上に少ないと我に返ったのでその辺にしときますが、「フィクションだから」という魔法の言葉を口にしておこう。

BBC『Peaky Blinders S02E06』
Peaky Blinders-the Red Right Hand

シーズン2の最後にキャンベルはUVFの『Red Right Hand』ってやつらを雇ってトーマスを殺そうとしてましたが、この団体はおそらくドラマ主題歌『Red Right Hand』と、『RHC(Red Hand Commando)』とか『RHD(Red Hand Defenders, 赤い手の防衛者)』って、その後の時代に実在したアルスター系テロ組織をかけていると思います。古い時代のUVFも旗には紋章が描かれてるけど、赤い手名乗ってなかったはずなので。←また誰も興味のない話になる…。

この『Red Hand(赤い手)』っていうのはアルスター地方の『アルスターの赤い手』って神話に由来していて、テロとは関係のないことでも使われてます。むしろテロ組織のシンボルにされて風評被害受けてる。

ドラマの主題歌『Red Right Hand』のほうはジョン・ミルトンの叙事詩『失楽園(Paradise Lost)』から取ったそうで関係ないらしい。

シーズン5でもマイケルをさらってたIRAの電話の中などでUVFの名前が出てたりしましたが、このドラマはイギリス側の話なので彼らの側と仲がいいUVFもそんな風にちょこちょこ出てきてる。

1920年代のUVFと現代のUVF。
Google画像検索で見てみると違いが一目瞭然。下もお揃いのユニフォーム着てるけど…。

Ulster Volunteer Force

上でも書いたように、IRAは1969年までの共和国軍と、『暫定』とか『公式』とか『真の』とかいろいろ名乗って本家と元祖争いみたいになってる近年のテロ組織とは別物とされてます。継続IRA(CIRA)って一派が今年もニュースになってた。

UVFも、1912年に結成されてるドラマの当時のUVFと、同じ名前で1966年以降に設立された組織は別です。こっちもこっちで組織が対立分裂したりくっついたりしつつ、カトリック市民を攻撃したり、アイルランド共和国内でテロ起こしたりしてる。やはり現役で活動中…。上の段落で書いた『RHD(赤い手の防衛者)』とかはこちらのグループです。

そして今は両者仲良く日本の公安のテロ組織リストに名前が並んでます。英国カテゴリのイスラム4UK以外は大まかに分けて両者の分派。

なんて、テロ組織とか延々語ってると、私まで公安にマークされそうな…。