アメリカ&イギリスドラマとオリエンタル

※文中にも書いてますが、まず今のアメリカではアジア系を『オリエンタル(Oriental)』って表現するのは差別です。

先日、世界的一流ブランドDiorの中国での展示会の写真が「アジア女性を汚してる」って中国国営メディアに批判されて画像撤去ってのをネット記事で見て、該当画像を見たら「なるほどこれは怒るかも」と納得したニュースがありました。

日本でいう麗子像みたいなちょっと不気味で時代がかった感じの容貌だったの。芸術としてはいいかもしれないけど、展示会の販促としてはないだろと。これ見て「このバッグ素敵。ほしいー」とはならないよね。たぶん。バッグに呪いかけてる図、みたいな。

まあモード系とか一般人には理解できないメイクやファッションがありなので、そういう系の人にはクールに刺さるかもしれないけど、圧倒的多数の一般人には「なにこれこわい」と。

カメラマンは中国人女性だったそうだけど、いくつか記事見たら、中国メディアは彼女の西洋の審美眼に媚びたアジア人を細い目やそばかすで表現する偏見にも怒ってるとか。

日本の芸術家でも欧米受け・海外受けを意識してコテコテなのをやってしまって日本人に批判される例もあるし、同国人だから受けるものが作れるってわけでもないと。カメラマンの方も謝罪したそうな。

 
なんて時事ネタ書いてますが。別に中国擁護とか差別の抗議とかの話ではありません。この画像に対する中国の反応で、思い出したネタが今回。

要するにこの画像が表現しようとしてるのは『オリエンタリズム(Orientalism)』で、やりたいことは理解できるけども、現代においてそれが許容できるか否かの話。

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※引き合いに出してしまった麗子像は北方ルネサンスの影響を受けた絵風だそうで、実際の麗子さんの写真は普通にかわいかった…。

 

『オリエンタル(Oriental)』とは何か?

まず『オリエンタリズム(Orientalism)』って何って。その言葉は『オリエンタル(Oriental)』から来てます。日本語だと『東洋』。

前にイギリスドラマのとこで書いた記憶があるけども、『オリエンタル(Oriental)』はラテン語で東を意味するOrienceから来ていて、反対語はOccidenで西。ヨーロッパから見て東側ってそのままの意味で、異なる文化や風習にエキゾチックさや神秘性を持ってそう呼び出しました。日本が一番東=極東って呼ばれるように、イギリス起点です。

なので『オリエンタリズム』は東洋趣味とか訳されてもいる。

絵画などの芸術面でそう呼ばれ出した時には、主に中東やらインドなんかの西アジアを指してて、オリエンタリズム絵画だとモスクやターバン巻いたインド人の絵とかが多い。キリスト教文化と違う未知の文明文化を表現してた。

そのうちシルクロードを渡って東へも広がって来て、日本・中国・韓国とかの東アジアの文化も含まれて来たり。日本文化を取り入れた芸術は『ジャポニズム(Japonism)=日本趣味』とか呼ばれたり。

そんなアジアっぽい芸術が『オリエンタリズム』であり、アジアっぽさが『オリエンタル』と。ざっくりしすぎなのは、西側から見た東側文化をひっくるめてるから。中東と東アジアじゃ見た目も文化も宗教も全然違うんだけど…。

アジア人の括りが大きすぎるんだよね。まあそれも差別って言ってる人はいますが。

当の西洋人もそこには気づいているようで、イギリスとかヨーロッパだと「アジア人」はインドとか東南アジア辺りまでの人たちを指して、日中韓は「オリエンタル」なんて表現してみたり。アメリカではそれが差別って流れを受けて日中韓を「チャイニーズ」と括ってみたらそっちのが差別だよって言われて、右往左往してたり。

 

『オリエンタル(Oriental)』は差別語です。アメリカでは。

差別差別って差別なの?って言われそうですが、まずアメリカではアジア系の人を『オリエンタル(Oriental)』って呼ぶのは差別です。オバマ大統領時代の2016年に決まって、『ニグロ(Negro)』と共に公式文書とかからも削られた。

2016年のオバマ(元)大統領の署名によって、アメリカの公文書では「オリエンタル」が「アジア系アメリカ人」に変更された。
U.S. government to stop using these words to refer to minorities
https://edition.cnn.com/2016/05/22/politics/obama-federal-law-minorities-references/index.html

The federal government will no longer use the terms “Negro” and “Oriental” after President Barack Obama signed a bill into law.
The official terms will be African-American and Asian-American. Welcome to 2016.

 
アメリカセレブのドロシー・ワンが「オリエンタル」と呼ばれることを差別的だと言っているイギリスBBCの記事。アメリカでは「オリエンタル」を誰か人に使うのは侮辱と受け取られる。
Reality star Dorothy Wang: Don’t call me oriental
http://www.bbc.co.uk/newsbeat/article/40714775/reality-star-dorothy-wang-dont-call-me-oriental

In America, to use the word oriental to describe someone is considered offensive.

なので『オリエンタル・ビューティー(Oriental beauty)』って誉め言葉でもダメです。東洋を指してオリエンタルとかオリエントって単語自体を使うのは問題ないけど、アジア系のを表現しては駄目。

 
一方で日本では夏のオリンピックの前に菅前総理が1964年のオリンピックの思い出で『東洋の魔女(Oriental Witches)』と恐れられた女子バレーボール日本代表の話を懐かしんでました。強くて恐れられたのが名前の由来で当時はそう呼ばれてたんでしょうし、総理も差別の意味は全くなくてむしろ強い時代を誇りに思っての発言です。これを差別と感じる日本人はいないと思います。

でもアメリカでは日本人を『東洋の魔女』なんて呼んだらアウトです。とは言っても総理のニュースは英語でも配信されたし、そのうち公開されるらしいドキュメンタリー?映画『The Witches of the Orient』の記事とかでも「オリエンタル」は使われてた。あくまで当時の名称だからね。現代で名づけるならば別の言葉を選ぶだろうって話。

 
更に『オリエンタル』なアジア系表現はアメリカでは差別だけど、イギリスやヨーロッパでは少なくとも今の時点では差別とまでは行かない様子。その辺が最初に書いたフランスブランドのDiorの表現につながってるんじゃないかと。

差別するつもりはなくて、「オリエンタルでエキゾチックな文化にも馴染む我々のブランド」的なイメージを表現したかったんだろうなって。わざわざ中国での展示会に持ってきたくらいだし、下手するとこういうアジアのステレオタイプな部分を強調したコテコテ中国風を「中国のお客さんが喜んでくれるかも」くらいに思ってた可能性もある。

 
実際オリエンタルって言葉や表現をそう呼ばれる側の日本人は差別とは思ってないし、『オリエンタル・ビューティー(Oriental beauty)』なんて誉め言葉と思ってる。『東方美人』って名前の台湾茶も有名だったりするし、近隣国でも特に悪いニュアンスはないんじゃないかと。中国を除いては。中国とアメリカは経済的にも反目しあってますが、この点ではアメリカと似てるかも。

ただまあアメリカでも反応してるのは若い子やリベラルの人が多くて、アジア系の若い子の「うちのおじいちゃんはいまだに自分らをオリエンタルって呼ぶんで困る」みたいな記事もあった。昔は遠回しなアジア系を表現する言葉だったのが「現代では差別です」って言われてもおじいちゃん困るよって話。言葉狩り的な部分もある。

    

 

『オリエンタル(Oriental)』は何故アウトなのか?

さてなんで差別かって言うと、オリエンタルが持つイメージ。オリエンタリズム。西洋に対する東洋、異なる文化や価値観の人たちってカテゴライズが「偏見」だから。

アメリカで生まれ育ったアジア系にとっては、アメリカ文化と価値観で育ってるのにお前は異宗教・異文化の人間だろって「オリエンタル」ってよそ者としての壁を作られるのは差別。要するに彼ら自身はハンバーガーとコーラがソウルフードと思っていても、他の人種の人からはアジア人だからいつも寿司食ってんだろ、みたいに見た目でステレオタイプな判断されると。

容姿に関する黒髪に切れ長の目みたいなエキゾチックなオリエンタルイメージもアジア系への差別につながるから、誉め言葉でもアウトと。

 
ポリコレ面倒くせぇて思うでしょう。まあ私も正直「これもアウトなのか」って知った時に驚いた。けどアジア系の文化や見た目の価値観への「偏見」は、西側から見て自分たちと異なる文化への畏怖とか神秘性――というポジティブな面だけならいんだけど、どうしても未開の文化、キリスト教から比較して劣った文化的な見下しも入る。

お前アジア人だからいつも寿司食ってんだろ、が、いつも犬だの猫だの食ってんだろ、にもなるわけで。まあ文化として食べる国もあるから否定はしちゃ駄目だけど、理解できない文化を馬鹿にする攻撃材料になる。そこで「日本人は食べないよ」って言っても「うるせえチャイニーズ」みたいにアジアは一括りにされちゃうみたいなのも、どうせみんな同じってラベリングして見下してる。

 
アメリカで生まれ育っても、自分のルーツや文化を大事に思ってる人もいる。そういう人にとっても「オリエンタル」ってラベリングが自分のルーツを見下す表現として使われていて、自分たちの文化に対する侮辱の言葉になってる。

それは過去の『黄禍論』にもつながるから、そういう意味ではやっぱりアメリカでは差別ってなるのもわかる。更に西側から見た都合のいい東側文化が『文化の盗用』になるとかさ。

 
これは試しに『ジャポニズム(Japonism)』でGoogle画像検索してみるとわかりますが、着物着た西洋のお姉さんの絵とかヘンテコ日本の画像がたくさん出てきます。面白いけど。ってゴッホとかモネとか一流画家の作品です…。しかし現代のポリコレ的にはこういうのは『文化の盗用』と呼ばれるでありましょう。

西側のオリエンタリズムの表現自体が、アジアっぽさを自分たちに都合よく利用してる――ってなってしまう。過去の芸術全否定です。

アメリカドラマとマーベルと黄禍論とフー・マンチュー

黄禍論のところで書いた『フー・マンチュー(Dr Fu Manchu)』も、一神教には理解できない宗教や価値観・文化を持ってて、謎の魔法や薬物で欧米人を苦しめる中国人の悪役として登場してました。

東洋の魔女もある意味、東洋文化の謎パワーで西洋人を苦しめる『魔女』なわけで女版フー・マンチューみたいなイメージから来てる。スポーツなので恐れられてる=強いってわけなんだけども、それも今の価値観だと別の表現にすべきとなる。

    『オリエンタル(Oriental)』がアウトな理由

  • アメリカで生まれ育ったほとんどのアジア系からしたら、見た目が違うだけで好みも価値観もアメリカ人なのに、見た目の偏見で阻害される要因になるから。
  • 過去の黄禍論みたいな、アジアの違う文化食生活宗教や見た目の人を見下し差別を正当化するためにも使われるから。
  • 西側の価値観でアジアを表現することは、アジアの文化を西側の都合よく利用することにつながるから。

 

『オリエンタリズム(Orientalism)』は偏見かファンタジーか。どこからが差別?

でもさ、明らかに差別的な描き方ならまだしも、悪意あるわけじゃないならいいじゃんて、多くの日本人は思うかと思いますが。私も正直思ったりする。これも前に書いたけど、日本の少年漫画とかには善人フー・マンチュー的な『老師』とか『仙人』キャラは出てくるしさ。

けどアメリカで暮らすアジア系の人には現実の苦労だからね、差別の芽を摘むため声を上げてるわけ。実際「オリエンタル」を差別的に使う人が多かったからこそ、実害があったからこそ、使わないように連邦法でも決めたわけで…。

なのでアメリカのドラマや映画などのフィクションでも昨今は、現地アジア系を表現する際には、ミステリアスで古典的なアジア人描写はなるべく避けて「現代アメリカ人」として馴染む形で登場させようとしてる気がする。現代ドラマでは。歴史・時代ドラマとかだと相変わらずアジア系は武闘が得意とかステレオタイプも多いけど。

そこから派生してアジア受けを狙ってコテコテ描写とかやっちゃって滑ったり、「文化への侮辱」って中国に怒られたりもしてますな。そういう点ではアメリカも試行錯誤してる段階かもしれない。

 
私はアメドラとかの変な日本描写喜んで見ちゃうし、日本人は割と受け入れてると思うけど、変なアジア描写を現地のアジア系の人が「アジアの文化への理解とリスペクトがない」とか怒ってたりもするので、私もリスペクト足りなくてごめんよ、みたいな。

要するにアメリカの非アジア系とアジア系、日本に住む人、中国に住む人、みんな許容ラインや価値観が違う。「これくらいいいじゃん」ってなっちゃう日本が正直一番ゆるいと思う。勿論日本人の中にもいろんな意見はあるし厳しい人もいるだろうけど。
 

BBC『Peaky Blinders S01E01』
イギリスドラマだけど中国系の占い師の少女。お馬さんがレースで勝つよう魔法使ってる図。時代設定1920年とかだしこのドラマ主人公たちもジプシー(ロマ)設定で呪いとか出てきたりしてるけども。

これを
・まあよく分からない秘法使いそうって典型的な欧米フィクションのアジア人描写だよね、と思うか、
・アジア人を魔女扱いするなんて差別的、とするか、
・日頃はリスペクトしてないくせに私たちの文化イメージを都合よく盗むな、とするか、
見方によっても変わると。
※別にこのドラマのこのシーンは問題にはなってません。例として使っただけ。

 
今回のDiorのニュースよりだいぶ前の8月頃にも、中国は人種差別的な表現と、商業のために我々の文化を利用するなという理由でマーベルの新作映画『シャン・チー(Shang-Chi)』の自国公開をキャンセルしたのではってニュースがありました。それも『黄禍論』のとこに書いたけど。

その前回のところでも、アジア系だから武道が得意のキャラを出す、すると全てのアジア系が武道得意じゃないからそれは差別だ偏見だって両方の意見も出てくるって書いたけど、どちらも一理あるからこそ差別認定って難しい。

個人的には「オリエンタル」って呼ばれるほうが「チャイニーズ」よりマシです。でもまあどっちも避けて「アジアン」が無難かな…と思いきや、いちいち人種を指摘するのも今の時代的には差別なので「アジアン呼びもアウトです」とか。もう無限ループの世界よ。そのうちみんな「人類」呼びか。いやそれも宇宙人差別だよ…。

※人に対して使ってないし、アメリカじゃないからセーフ…。