今回はドラマじゃなくて個人的な話です。アメドラばかり見ているとたまに和風なものが恋しくなるだけ。
今は取り壊され、現代住居に生まれ変わって親戚が住んでいるけれど、私が子供の頃の祖母の家は、築何百年も続く日本家屋でした。田舎の本家でそれなりに歴史もあって広かった。部屋と部屋との境は襖で、親戚の子たちと集まると、殿様ごっこをやったりした。「殿!」って言いながら襖を開けまくるだけの話だけど。笑。トイレやお風呂が付いたのも戦後だったらしくて、昔は庭にドラム管みたいなお風呂を置いていたそうで(いわゆる五右衛門風呂スタイル)、若い娘さんだった当時の親戚のおばさんたちはよく近所の変態に覗かれて、祖父が追い払ってたと言っていた。
そういう状態だから、私たちが行った頃に使ったトイレも昔ながらの汲み取り式で、子供たちは落ちたらどうしようとか、下からお化けが出てくるんじゃないかとか、大騒ぎしてた。それも今はウォシュレット付きの最新トイレに生まれ変わってますが。
そんな古い祖母の家には、秘密の部屋があった。家の周りを子供同士で追いかけっこして遊ぶうちに、奥の一角の格子戸のあるところが、内側からは入れない部屋だって気が付いた。そんなに広さはない一角で、クモの巣だらけの格子越しの障子の向こうは薄暗くて何の部屋か分からない。場所からすると北側の押し入れになってる場所の更に奥らしい。開かずの部屋で誰かが入るところは見たことがなかったけれど、障子の向こうにはどうやらガラスが貼られてるようで、戦後になって改装もされたような気配はある。
「あの奥の窓、なに?」
早速、私たちは祖母や両親、親戚に聞いてみるけれど、大人たちはみんな曖昧な返事。「何でもない」「子供は知らなくていい」「今は使われてない」とか、何かを隠してる感じありありなのね。
探検で入ってみたい気持ちはあったものの、物がたくさん詰まった押入れの向こうだし、薄暗い北側の開かずの小部屋って、子供にはおどろおどろし過ぎて勇気がなかった。代わりにあれは何だろうって想像した。
当時はまだアメドラには出会っていなかったけれど、私は小学生の頃はもう少年探偵団シリーズを卒業して江戸川乱歩や横溝正史とかも読んでいるような、既にミステリーやクライム系の話が大好きなませた子供だったので、あれは大人が隠す怪しい部屋なんだろうって思い込んでた。きっと座敷牢とか誰かを閉じ込めていた部屋じゃないかってドキドキしながら想像してた。
座敷牢って何かというと、横溝小説だとたまに薄幸の美女やら美少年を閉じ込めていたりするエロい話もありましたが、本来は精神を病んだ身内を隔離するために使われた檻付きの部屋だそうです。向精神薬とかない時代は暴れる人を狐憑きとか言ってお祓いなどで何とかしようとしてたけど、どうにもならない時は物理的に隔離するしかなかったと。身内に精神病んでる人がいると遺伝するって言われて姉妹とかの結婚にも差し障りがあった時代なので隠したという面もあるらしい。戦後しばらくまでは、治療できない病人の隔離措置としてちゃんと警察に届けでも出した上で合法で行われていたそうな。
さてそんな座敷牢が祖母の家にあったということは、過去には病んだ身内がいたんだろうかとか思ったり。古い旧家だからそれこそ小説みたいな話もあったのかもと空想したりしてました。
まあ、真相は全然違ったんですが。
「あれは昔のお産部屋だよ」
祖母も亡くなり私も大人になって、親戚が家を今風の新しい二階建ての住居に建て直すって言っていた流れで「そういえば」と切り出すと、今度は、あっさり答えが返ってきました。
戦後は産科で産んでいるので現存している親戚たちは誰もあの部屋にはお世話になっていないそうですが、昔は自宅に産婆さんを呼んでの出産が当たり前で、時代的にもお産は隠してやるものだったから、北の奥のあの部屋で産んでいたんだそう。旧家だから代々のお嫁さんたちが使うにしても、そんな頻繁に必要になる部屋でもないから奥にあったって面もあるようです。
子供に隠していたのは、別の理由だったというオチ。
最初に書いたように、日本家屋は襖で仕切られているだけでプライバシーもないので、産後のお嫁さんたちが休むのにも奥まった部屋の方がよかったのかもしれない。
実際に取り壊す前に中を見せてもらいましたが、四畳半あるかないかってくらいの狭い部屋で、壁際には箪笥と洗い桶みたいなのが残ってた。赤ちゃん取り出して洗うのに使ってたやつだって。箪笥の中は古い木綿のベビー服や産着やオムツとか(昔は手洗い再利用していたので…)、ベビー用品ばかりでした。おどろおどろしい部屋だと思っていたら全然違っていた。笑。
ちなみに長野の農家の親戚の家も古い日本家屋で、こちらは多分まだ残っているのですが、そこの二階の奥にも、部屋の中に障子の柵みたいな木枠だけが並べられた埃だらけの薄暗い異様な部屋があって、「これもまた怪しい部屋か?」と子供の頃には勝手に疑っていたのですが、正体は『お蚕部屋』でした。
昔は農家は冬とか農作物の育たない時期に、お蚕を育てて副業していたらしい。長野はお蚕の食べる桑の木も多くて、養蚕が盛んだったんだって。私が子供の頃に見た頃は既に止めていたそうで、程よく荒れて怪しい雰囲気になった部屋だけが残っていたわけでした。『お蚕部屋』はぐぐるとまだ似たようなものがヒットするので、現在もどこかで使われているかもしれない。※糸を取った後の蚕を佃煮にする料理もあるそうですが、さすがに食べたことはないです…。
ということで、どちらも時代の流れで今は珍しくなっただけの普通の部屋でした。今の民家の部屋も後世には不思議がられるものがあるかも。WIC(ウォークインクローゼット)とか謎の小部屋だよね。これは元々海外の広いおうちにあるものを日本へ輸入してるので、アメドラでもおハイソな部屋だとたまに出てきますが。と、最後に無理やりドラマの話へ持って行ってみた。