魅力的な主人公

完全無欠で容姿端麗才色兼備の主人公。――というのは古今東西の物語を見回しても、あまりいません。創作の指南書や物語の分析・批評家の意見では「避けろ」と言われています。何故か。ムカつくから。まあ正しくは感情移入の余地がないからですが、完璧すぎて共感できないキャラは見ていてハラハラドキドキできないってことです。強すぎて見ていて面白くないから受けないので避けましょうってこと。てか完璧すぎたり余りにピュアな正義の味方過ぎると見ていて鼻についてムカつくよね。私だけ?

裏返して、こういう主人公が魅力的であると示されているのは共感できる欠点があること。更に言うと克服可能な欠点を持ち成長していくのが魅力的な主人公です。

共感できると言ってもその欠点は主人公に相応しくないとならない。変態とか反社会的とか眉を顰められるようなものはイケマセン。正義感を持っていて、道義心にあふれているのが大まかな条件です。その上で彼/彼女の欠点は「あるある」って読み手・視聴者がうなずけるような軽いもの。とは言ってもこの辺はジャンルによって違います。

※クーンツ先生も『ベストセラー小説の書き方』の中で、主人公に好ましい特徴として、高潔さ、有能さ、勇気、好感、不完全さの5つを挙げてました。そして平然と人を殺す主人公はまずいって書いてます。そういえばクーンツ先生の小説もやたら病んでるかトラウマ持ちの主人公が出てきます。やっぱアメリカン。

ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)

少年少女漫画

元々の要素が選ばれた人間が多いのが漫画の世界。彼らがピンチを切り抜け成長して勝利を手に入れるのが大雑把なストーリーです。少年漫画だとラスボスを倒すことで、少女漫画だとその勝利が王子様の愛になったりするのね。

彼らの持つ欠点はほんの些細なものだったりすることが多い。これは元々が完全無欠に近い、要するにムカつくスレスレのキャラだったりするので、そこに人間らしさを足している。勇者だけどヒロインの尻に敷かれているとか。初めは弱かったけど努力して力をつけて来たとか。美女なのに好きな彼には話しかけられないとか。眼鏡を取ってファッション変えたら美人になった、とか。一応努力の物語が入ってきたりもするけれど、やっぱり元からセンスがいい選ばれた存在だよね。

こういう自分は人とは違う的な選ばれしキャラクターは思春期までに受けるからって理由もあります。中二病(古い?)って言われる世代が好きなのが、やればできる、本当はすごい自分キャラ。なので彼らを対象にした物語は、元のスペックは高いけど磨かれていない状態から始まったりします。

まあ逆に平凡なセンスがない主人公を作ったとして、どれだけ必死に努力しても勝てない強くなれない主人公とか、リアルでは山ほどいるんでしょうけど、物語でそれ読んでて楽しいか?って話になると。現実で苦労してるのに創作でまで読みたくないとか見る側も屈折してくよね。鬱系好きな人にはいいんでしょうが、若い子向けの健全な物語ではないと。

純文学、ライトノベル

これらのジャンルで出てくる欠点は内面のものが多い。てか一人称自分語りが多かったりするので、自然と胸の内をクダクダと語るスタイルが多くなると。行動的で外界の問題を解決していく系の物語は、どちらかというとエンタメになります。

日本の地上波ドラマ

正義感あふれるキャラだけどドジ、とか。仕事にシビアでデキる女だけど私生活は駄目だとか。ここも些細で愛される欠点・二面性を持った主人公が多いです。エリートで冷徹な美女が夜は怪しい商売を――なんて見ていて引くような設定は、どちらかというとドロドロドラマの役割です。

これも創作の都合という面から見ると、日本の地上波ドラマは若い俳優・女優さんを売り出す場でもあるから、イメージを損なう過度の汚れ役はやらせないと。なのでかわいい欠点を持ったスレてないキャラクターが多い。

サスペンス・推理

ここは話の流れから深刻な悩みを抱える率も高い。殺された親の復讐とか、話の展開上、殺人事件とか起きる率が高いからね。でも大体は、ディープなキャラは主人公ではない犯人だったり周囲の人だったりします。主人公がトラウマ持ちで病んでたら犯人見つけるどころじゃないからです。まあ家族の死を乗り越えてトラウマを克服――なんて話もなくはないけど。

アメリカドラマ

前の記事でも書いたけど、日本の地上波ドラマより病んでるキャラが多いです。家族の死を抱えていたり、トラウマや依存症持ちだったり。コメディや恋愛ものでもドラッグ依存とか家族のディープな話とかさらりと出してくるよね。そういうのが共感できる国なのか?作る側の都合で見るとネタにしやすいからだろうって書きましたが、少なくとも視聴者も受け止めてくれるから成り立っているのでしょう。

日本だと一昔前のジェットコースタードラマって言われるようなのとか、昼メロとかがドロドロしていて病んでる主人公も出てきてます。

アクションドラマ

このジャンルだと国を問わず、正義のために時には悪役を殺す主人公も出てきます。でも殺人が趣味だとか自らの欲望のために罪を犯すキャラではいけません。あくまでも正義のために仕方なく、です。また大体が特殊技能とかミッションを持って活動しているので、そういう非現実的な設定と、視聴者が感情移入しやすい日常的なバランスを取る意味で、ありふれた悩みや欠点を持たせて人間臭さを演出している例が多いです。冷徹な正義のスパイがプライベートでは息子との仲がギクシャクしていて悩んでいたり。恐妻家だとか。やたら食事描写が多いハードボイルド系も多分そう。毎日フルコース食べてて日常とかけ離れすぎてたら憧れも共感もないからね。

その他

上に挙げたのは極端な例を出しているので、それ以外のジャンルにもそれぞれ共感できる主人公がいます。でもその共感ポイントの欠点レベルは物語の世界観に応じたレベルになっているはずでず。例えばほのぼのドラマの主人公が親が惨殺されたトラウマを抱えて不眠症なんて設定だったら、世界観とキャラクターがズレちゃってますからほのぼのできません。まあ、お父さんがパイにされてるとかってさらりとダークなピーターラビットみたいな例もあるにはありますが、、、ウサギたちはそのせいで心を病んでたりしないからね。たぶん。