Jimmy’s hall ジミー、野を駆ける伝説 ネタバレ感想と変な邦題の話とか

さて今回は2014年のイギリス・アイルランド・フランス映画。ほぼアイルランドが舞台の話なのでフランス要素が分からないけど。『Jimmy’s Hall』です。邦題は『ジミー、野を駆ける伝説』。

海外の人と「この映画orドラマ見た?」って話をするたびに、邦題が違いすぎて何の映画・ドラマの話かぐぐらないとわからない問題があったりしますが、今回のこれも微妙に同じです。

日本のネット記事とかでもたまに変な邦題が話題になったりしてますが、基本的に日本の映画やドラマって『タイトル~○○~』みたいに副題つけたがるよね。ほんとかどうか知らないけども、このタイトルに説明を盛っちゃう傾向は中国もらしい。アジア文化なのか、これ?

まあ逆に英語のタイトルはシンプル過ぎるの多くて、タイトル検索したら映画にドラマにゲームに曲に小説にって被りまくりで、目的のがちょっと古かったりすると埋もれて見つからないとかあったり。なので邦題にあれこれ盛り込んでしまう気持ちも分からなくない。

  

実際この映画、アイルランドの人に『Jimmy’s Hall』って映画見たことある?って聞かれて、タイトルだけではすぐわからずにどんな話か聞いて、「ああ、あの映画かみたことある。けどタイトルそんなんだっけ?」ってやりとりしました。そして日本語タイトルぐぐって、『ジミー、野を駆ける伝説』だったって相手に英訳して説明したらなんか受けてたし。大げさだからであろう。

一応、映画の中で主人公が戻ってきて仲間に歓迎されてる時に言われた台詞をもとにしてるっぽいんだけどさ。

You must have been around the world twenty times by now.
Well, thanks be to God you’re back here now with your mother because, you know, it was lonely here for her.

訳:二十回くらい世界を回った末に、ご加護のおかげでやっとお母さんのためにここに戻ってきたね。お母さんが寂しがってたぞ。みたいな。※日本語版の訳がどうなってるか確認してません。

 
この知り合いとは他にもいろんな映画・ドラマの話をして、日本未公開の『Love/Hate』とかアイルランドのドラマも教えてもらったりしましたが、日本語化されてるやつは日本に来ると変な副題がつく率高いって話を教えたら面白がられました。

「これの日本語のタイトルは?」とかあれこれ聞かれて、そのたびにぐぐって日本語のタイトル探して、それをなんとか英語化して伝えるという、よく分からない会話をして盛り上がったり。そのままカタカナになってるやつはガッカリされたり…。

なんでこの映画には伝説ついてるのに、『Michael Collins(マイケル・コリンズ)』はそのままなんだよ、とか残念がってた。

コリンズはアイルランドの独立戦争をIRA諜報リーダーとして率いて戦い、英愛条約を調印して、そのため起こった内戦で命を落としたアイルランドの英雄なので、もっとすごい大げさなのを期待してたらしい。「主演のリーアム・ニーソンが有名だからそれだけで売れるんじゃないの」って言っといたけども。

Michael Collins マイケル・コリンズ ネタバレ感想とゴシップ話?

逆にきっちりきれいに翻訳してあっても、外来語がないばかりに英語の人にはまったく通じないし、原題聞いても英語が分からないと全くどの映画か分からない『The Wind That Shakes The Barley』こと邦題『麦の穂をゆらす風』みたいなの話もしたり。この映画に関しては、「直訳だけど詩的な感じのタイトルになってる」って言ったら喜んでました。

The Wind That Shakes The Barley 麦の穂をゆらす風 ネタバレ感想とアイルランドの歴史の話

映画の背景・歴史のお勉強

というわけで今回の映画は『The Wind That Shakes The Barley』の監督でもあるケン・ローチの作品です。時代設定的にもアイルランドの独立戦争・内戦を描いた『The Wind That Shakes The Barley』が1920~1922年頃で、今回は10年後の1932年と続編みたいになってます。

あちこちで散々書いてるけども、時代背景としてはアイルランドがイギリスの統治下にあった時代。

1916年
イースター蜂起当時はIV・IRBとか呼ばれてたボランティア組織が、

1919年
アイルランド議会がアイルランド共和国として独立を宣言することで『Irish Republican Army=アイルランド共和(国)軍=IRA』と名乗り、イギリスに対して独立戦争を始め、

1921年
イギリスの休戦に伴う英愛条約の、共和国でなく自由国とか、イギリス国王に忠誠を誓うとか、北アイルランドはイギリスのままとかの条件で意見が分裂して、

1922年
IRAは条約賛成派≒自由国軍(共和国を捨てたのでこの人らはIRAとはもう呼ばれない)と反条約IRAに別れて内戦を始めます。この辺までが『The Wind That Shakes The Barley』と、『Michael Collins』の時代。コリンズはここで亡くなりますが、しかしイギリスがついてる条約賛成派が勝ち、

1931年
いろいろあってアイルランドは自由国になりました。

今回の映画はこの辺りの物語です。

 
同じ1930年代でお隣イギリスが舞台になってる『Peaky Blinders: Series5(ピーキー・ブラインダーズ: シーズン5)』のシリーズ5のとこに近年の北アイルランド問題までの時系列も書いて、「この時代のIRAの活動は比較的おとなしい」って言いましたが、アイルランドは自由国としてイギリス統治から離れ、自治力を持つようになった時期なので、もう戦争は必要なくなってます。

内戦に負けたIRAの生き残りはまだ共和国化を求めてましたが、国民が自由国を選んだのは戦争が嫌だったからということもあり、どちらかというと穏便に、反条約派の政治家のエイモン・デ・ヴァレラ(Éamon de Valera)が憲法改正しつつ政治で共和国化へ持って行こうとしてた。実際この映画の後の1937年にエール、1947年には共和国として今日までのアイルランドになりました。

なのでこの映画でもちょっとIRAは出てくるけど、主人公の力を借りようとしてるほとんど田舎の消防隊員くらいの存在感しかない。教会の横暴に強く言えない無能的な描かれ方。笑。対して国家権力となった旧条約賛成派の自由国軍の方は力持ってる。

 
IRAは共和国化を達成してからは、北アイルランドの統一を目指す流れになって行きますが、イギリスからの独立と共和国化を求めた1922年くらいまでのOld IRAと呼ばれる時代~1969年までが、ざっくりアイルランドの独立と祖国のために戦った人たちになります。

その後1970年からのIRAは北アイルランド統一のため武力行使をする人たちが主になります。厳密には『暫定IRA』『公式IRA』とか頭にいろいろついてますが、ニュースではIRAと呼ばれてますな。そしてテロ組織として監視対象になります。

アイルランドの人が「先祖はIRAだった」とかいう場合、大体はアイルランドの独立のために戦った英雄の方を指しているので、名誉なことと自慢してます。びっくりしないように。

 

資本家・権力側と労働者と共産主義

上の時系列にも書いたように、1922年のアイルランド内戦ではIRAは分裂し、イギリス側がついてる条約賛成派と、反条約派が戦いました。アイルランドのこの辺の時代のドラマや映画では大体、身内や仲間がそこで分裂する流れになってますってのは私も毎回書いてます。

そのうえで『The Wind That Shakes The Barley』の下の方で、どうして反条約派はイギリスがついてる相手と不利を承知で戦ったか――貧しい人が多かったからだって理由も書きました。これは『Michael Collins』とか条約賛成側からは語られないってのも。

改めて書くとイギリスから独立し自由国として自治領になって、イギリス側の権力がアイルランドの地主・教会とか資本家へスライドしたわけで、条約は金持ちや権力者にはメリット大きかった。

対する労働者側は上が変わっただけで、貧しい暮らしも圧政も変わらない。だからあくまで共和国として自分たちが平等に国を作ることを求めた。

内戦までの物語『The Wind That Shakes The Barley』はそこで終わってますが、今回の映画は10年後なのでその後の更にはっきりした対立を描いてます。階級闘争、貧富の差がくり返し出てくる。その部分がテーマというか。

『Jimmy’s Hall』
※地主の家と労働者の家の差がすごい…。

神父さんの家もたびたび出てくるけど、すごい立派で調度品もたくさん。
対するジミーの家はボロボロで狭い小屋みたい。

 
カトリック教会が道徳や正義を教え、自由国軍や警官が人々を取り締まる。資本家・地主が領土を支配する。彼らはいわゆる上級で、広くていい家に住んでいい服を着てる。

一方で労働者たちは農地や家を借りて小さくボロい小屋みたいな家に暮らしてる。しかも病気になったり地主の気分で家や土地を奪われる弱い立場。

そこを助けるのが、田舎の消防団レベルのIRAだったり(しかし役立たない)、主人公のジミーだったりするわけですが。その日暮らしで余裕もない労働者たちの音楽や学を教え、教養を与えるのが主人公。彼は共産主義者って散々言われてます。

 
同時代の物語『Peaky Blinders(ピーキー・ブラインダーズ)』でも共産主義者がよく出てきてたりしてますが、世界的には第一次大戦の後に世界恐慌が来て労働者たちは貧困に陥り、共産思想・社会主義思想に行き着いた時代でもあったりで、デモやストライキをしたり労働者の権利を守る活動が活発だった。

この映画では主人公以外も共産主義者扱い、反キリストとか言われて罵られてましたが、アイルランドの貧しい労働者たちの多くは、内戦時には反条約派として共和国・共和主義を求めてたわけですが、国民の平等を求める共和制への望みは労働者も資本家も平等って共産・社会主義と近いところにあったりで、そちらへ傾倒して過激化するんじゃないかと警戒されてた面もある。

実際、上で書いたようにIRAは過激化して1970年代にはテロ組織と呼ばれる団体になりますが、最初に出てきた団体は『OIRA(Official IRA, 公式IRA)』と名乗り、マルクス・レーニン主義思想をベースにしてた。その後に台頭したのが武闘強硬派『PIRA(Provisional IRA, 暫定IRA)』で、こちらの方が有名ですが。

 
この映画でも労働者たちが共産主義にかぶれて、北アイルランドのベルファストではカトリック・プロテスタントの枠を超えて団結しちゃったって神父とかが危機感持って語ってるシーンがありました。和平合意でノーベル賞もらえるくらい、アイルランドの歴史においてずっと対立してたこの両宗派が、労働者として資本家と戦うために簡単に仲良くなってしまうんだから、まあ権力側には脅威でしょうと。

……というように、この時代は戦争は終わってますが、教会や地主などの資本家・権力者サイドにファシスト、対する労働者側と(反条約)IRAと共産主義者と貧富による分裂が激しくなってた。

 

さて、時代背景が分かったところで、モデルになった人

DVDのパケにも「Based on a true sroty」ってあるように、一応この映画は実話を元にしてます。そのまんま。そしてタイトルにもなってる主人公は最初にも書かれてたけど、ジェームズ・グラルトン(James Gralton)って人です。ジミーはジェームズの愛称です。

この人はアメリカの市民権を持っていたようですが、アイルランドの独立戦争が勃発した当時にはアイルランドに戻ってIRAに参加して戦ったそうな。

そういう意味でもアイルランドの英雄だったりはするんだけどさ、内戦が終わった数年後に再度戻ってきた際にも、またIRAに参加して、自由国軍側に警戒されて、再度アメリカへ戻ったり、何度か行き来してたらしい。映画だと10年ぶり(独立戦争・内戦の頃以来)に戻ってきた設定になってたけど。

そして映画の時代、最後にアイルランドに戻ってきた時は、映画の通りにホール作ったりしてたところで、風紀を乱したってアイルランドから永久追放食らって帰国を許されず、そのままアメリカで生涯を終えたそう。

 
この映画が公開されたのが2014年で、その後にアイルランドでも国外追放のままは可哀想ってんで、もう亡くなってはいるけども処分の見直しを求める声が出て、2016年には大統領が(アイルランドには首相と大統領の両方いますが、大統領はほぼお飾りらしい…)も異議を唱えたり記念碑作ったりしたらしい。

そういう意味では映画のおかげで見直された人なんですが。IRA参加以外に何をしたかというと、映画だと若者に音楽やら価値観を教えて風紀を乱したことが懸念されて追い出された。そして共産主義を彼らに教え込もうとした「活動家」でもある。こちらの方が大きい。

共産主義と労働者の話は上にした通り、時代的に流行ってたり、元々近い部分もあったりで、労働者たちに受け入れられやすい――つまり彼らが影響受けて、権力者たちを脅かす存在になることを権力者たちは警戒してた。だから扇動者として、裁判もなしで国外追放したと。

映画でも神父とかが戻ってきた彼をやたら警戒して、ロンドンに働きに行けばって追い出そうとしてたのも、そういう事情だそうな。

 

テーマ曲

映画中ではホールで教えてて、最後に流れてたテーマ曲は『Siúil a Rúin』ってアイルランドの古い曲らしい。例のごとく読めねーですがアイルランド語です。シュシュシュ言ってましたな。←アイルランド語のそういう歌詞なのだ。戦地へ向かった恋人を歌った女性の曲らしい。

 

そして映画の話

映画は上で書いたようにアメリカとアイルランドを行き来してたジミーの最後の帰還と追放を書いています。そのうえで金持ちと貧乏人の階級対立構造がくり返されてる。

その点では分かりやすいけども、逆に話がシンプル過ぎるきらいもある。だってアメリカから主人公ジミーがアイルランドへ戻ってきて、音楽や踊りを教えることで若者の風紀を乱したと咎められて、権力側に妨害され、ホールを破壊され、またアメリカへ追放されるだけの話ですから。

地元に残って結婚した幼馴染との淡いラブストーリーみたいなのもあるけど、そこに重点があるわけでもない。かといってアクション全開でバンバン撃ってる話もないし、大きなエピソードもないし、田舎の小さな揉め事で大騒ぎしてワイワイやってるだけで、 と っ て も 退 屈 な 話 。おいこら。

一応、労働者がただ資本家にこき使われて働くだけではなく、本を読んだり歌ったり踊ったり自分の喜びを見つけて、自分らしさや自由を勝ち取ろうってのもテーマではありますが。

 
むしろ、この退屈さを喜ぶ映画かも。

イギリスの統治が終わり、独立戦争・内戦も終わり、イギリスとの条約に賛成した自由国軍や金持ち・地主たちが力を持ち、カトリックが道徳をコントロールする堅苦しい国にはなったものの、誰も死なない。せいぜい国を追放される程度。まあそれも大きなことだけど…。

この退屈なアイルランドの日常は、その10年前の、彼らの兄や親世代が独立戦争と内戦を戦って勝ち取ったもの――という見方をすると感慨深いし、希望が見える。この退屈さこそが、死んでいった人たちが残してくれたものだと。

そういう意味では『The Wind That Shakes The Barley』の後に見るのにちょうどいいのでセットで見てね。そういう意図で作ったようでは全くないっぽいけど。笑。

 

この映画のほんの10年ほど前までのイギリス占領下では、イギリス兵士に気に入らない態度取ったら殴られたり、場合によっては殺されてた。音楽がどうとかダンスがどうとか言ってる場合じゃなかった。そんな現実を変えるため、若い人たちが立ち上がったのが独立戦争と内戦。

リーアム・ニーソンの『Michael Collins』は枯れてるとか老けてるとか散々書いちゃったけど、実在のコリンズは映画の通り婚約者を残して31歳の若さで内戦時に亡くなってます。そしてそれは映画にならない対立側も同じ。

反条約派側のリーダーも婚約者を残して29歳で亡くなったという話はそこのページに書きましたが、みんな若くて、国の未来のために命を懸けてた。恋人や年老いた両親、幼い弟妹を残して死んでいったのは、平和を手に入れるため。

そして平和になったんだよ。音楽がどうのって大騒ぎしてさ。←まだ言ってる。そんな彼らを見て、亡くなった彼らのお兄さん世代はきっと喜んでいるのではと思ったり。

日本でも現代の人たちが平和ボケしすぎててご先祖様が悲しむとか言うけど、ご先祖様はボケるくらい平和でぬくぬく暮らしてる子孫の姿を見たら、平和になってよかったと思うんじゃないかと思います。

 
 
……という話を先のアイルランドの人に言ったら、納得できないって感じで「うーん」て顔されてしまったけど。笑。平和ボケの感覚は日本以外にはないっぽい。てか戦争が終わっても貧しかったり教会や軍の締め付けが厳しかったのは映画の通りなので「平和」というほどでもないみたいな。

 

役者さんの話

ちなみに今回のヒロインは、シモーヌ・カービー(Simone Kirby)という女優さんです。『Peaky Blinders: Series1(ピーキー・ブラインダーズ: シーズン1)』で歌ってた歌のお兄さんを「IRAドラマ見るといつも出てる人」って書いたけど、この女優さんも私がアイルランド人の出てくるドラマ見るたび出てくる。美人なヒロインという感じではないけども、個性的な役をよくやってる方です。

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やっぱりアイルランドの独立戦争を描いて2019年の私的ヒットだった『Resistance(Rebellion リベリオン: Series 2)』では主役で暗号解読の天才を演じてたし、『Peaky Blinders: Series2(ピーキー・ブラインダーズ: シーズン2)』では条約賛成派を演じてたし、『Love/Hate』でもレギュラーの刑事の奥さんとしてゲストで出てきてたんだけど、その刑事さん役の人はこちらの映画ではジミーのホールへ行ってた娘を鞭でぶってたおっさん役だったり。

『LOVE/HATE S05E02』

この映画の主人公ジミー役のバリー・ウォード(Barry Ward)さんも『Resistance』の前作でイースター蜂起を描いた『Rebellion(リベリオン)』の方に出てたり。

と、アイルランドは人口少ないし、役者が被りまくるのか、いつも似たようなメンツで回してるねって感じね。そのせいかアイルランドの若者は、ケーブルテレビでイギリスのドラマが見放題なのでみんなイギリスドラマばかり見てるって言ってたけども。

この女優さん、知り合いは有名になる前にダブリンの某所で働いてる姿を見かけたって言ってた。やっぱ人口少なくて狭い国だからね。しかしたまたま見かけただけだし、有名人とかの知り合いはいないので、キリアンに会いたいですとかは受け付けてません。私に連絡してこないように!

※映画の時系列順に並べてみた。